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顔を上げた麻理さんも泣いていた。
「侑都の行動は常軌を逸していたと思う。
巳緒ちゃんから別れを言われて、侑都は殆ど錯乱状態にあって。
入院している病院の内科のドクターに勧められて、侑都は姉と一緒に心療内科を受診したの」
「話を聞いた心療内科の医師に転地を勧められてね。
とにかくそのお嬢さんから離れた方が良いと。
退院したら、外国の大学に留学することが決まったから」
あたしの手をとり伏し拝むようにして続ける。
「侑都を警察に突き出さないでくれてありがとう…。
侑都は本当にあなたを愛してた。
こんなこと言われても困るだろうけど。
幼いころから感情の表現が苦手で自分を抑えてきたあの子が、あんなに感情を露にするのを初めて見て、私もつい甥可愛さにあなたに負担をかけてしまった」
「本当は義兄と姉からも謝罪しなきゃいけないんだけど、侑都から離れられる状態じゃなくて。
今、ふたりとも病室に詰めてるの。
また改めてご挨拶に伺うと申しておりました」
また深々と頭を下げた。
あたしは多すぎるお給料に固辞したが、麻理さんは頑として退かず仕方なく受け取った。
ご迷惑ばかりかけたバイトだった。
麻理さんと水野さんに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
泣きながら駅まで歩き、耐えきれずに彰に電話した。
彰は支離滅裂なあたしの話を、黙って辛抱強く聞いてくれた。
『巳緒はよく頑張ったと思うよ。
こんな状況でも辞めずに逃げずに最後までバイトやり通して、偉かった。
麻理さんは水野さんのこと抜きにしても巳緒のこと買ってくれてたんだと思う。
自信もって、バイト代ももらっていいんだよ』
あたしは彰の優しい声と口調に、すごく慰められた。
肩を抱いて励ましてもらっているような気がした。
ありがとう、彰。
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