巳緒・11-2

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 精神的にすごく長く感じられた夏休みがやっと終わり、また大学が始まった。  演劇部に公演の準備も少しずつ進んでいる。  11月あたまに開催される文化祭の公演日に向けて、稽古も次第に熱を帯びてくる。  ある日、舞台装置作りに駆り出されて材木を肩に担いで運んできた彰が、大学の入口辺りで、光咲さんという詩織ちゃんの友達に会ったと報告してきた。  Premierにも一緒に来た子だと聞かされて、あたしは思い出した。  あの、長い黒髪の美人。  愛くるしい詩織ちゃんとは好対照のクールビューティだった。  彰ってば、両手に花だなぁと思ったんだった。  彰の話を聞いてあたしは、詩織ちゃんと光咲さんって、あたしと彰の関係とは対角線の逆側にある、同性の友人の複雑な関係だと思った。  彰は「(いびつ)な関係」と評していたが、それを言ったらあたしたちもやっぱり外部から見れば歪んだ関係なのかもしれない。  でも、だからってどうしようもない。  彰とあたしは友達。  そう言い続けるしかない。  授業でもまた以前のように講義の度に隣に座るようになったあたしたちを、学部の友人達はなんとなく微笑ましく眺めてくれているような気がする。  中でも、智香と伊藤くんは前みたいに、よくあたしと彰の(そば)へ来て4人で話をするようになった。    最近気づいたんだけど。  伊藤くんって、智香のこと好きだよね?    かなり露骨に言い寄ってる…  智香も絶対気づいてるはずだけど、すっとぼけて上手くいなしてる感じ。
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