彰・11-1

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 当日はよく晴れて朝7時の時点でもう暑かった。  俺は巳緒と、巳緒の家の最寄り駅で待ち合わせして、一緒に行った。  伊藤は千葉の実家に住んでるし、智香ちゃんは俺たちとは沿線が違うので現地集合になった。  巳緒はノースリーブのチュニックにレースのチュニックを重ね、丈の短いジーンズと編み上げのサンダルを合わせて、俺が夏合宿であげた貝殻とパールのペンダントをしていた。  俺は照れてしまって何も言えず、気づかないふりを決め込んだ。  とても似合ってる。可愛いよ。  そう言いたかったんだけど、どうしても言えなかった。  言うと、他のことも言ってしまいそうで…  「智香はあまりアトラクションは好きじゃないって言ってたし、伊藤くんは智香と一緒にいたがるだろうから、あたしたちは積極的にアトラクション回ろう」  巳緒が吊革につかまって窓の外を見ながら言う。  眩しそうに目を細めている横顔に目を奪われながら、俺は「え?別行動するってこと?」と訊く。  巳緒は俺を見あげて  「だって、今日は智香と伊藤くんの距離を縮める会でしょ。  彰、ちゃんと伊藤くんを焚きつけた?」  凄いことを平気な顔で言う。  俺はしどろもどろになり「あ、、うん。まあ…」とか適当に答えてしまい、巳緒に足を踏まれた。  「痛って!」  俺は思わず叫んで、座席に座っている人に睨まれた。  笑っている巳緒を見ながら、俺は巳緒と行きたいところばかり考えていて、あの二人はまるで蚊帳の外に置いていたことに気づいた。    ダメだなもう…はしゃぎすぎだぞ俺…  巳緒は俺の方を向いて  「あのね、あたしソアリン行きたいの!  インパしたらすぐにファストパスとって…  彰は、トイマニのスタンバイ走ってね♡」  とにっこり笑って命令する。  「それからタワテラ行って…タートルトークと、ジェラのショーも見たいし。シーライダーはスタンバイでも大丈夫そう」  とかスマホでディズニーのサイトを見ながらブツブツ言っている。    俺はため息をつき、今日はもう、巳緒の言うがままに動こうと決めた。  せめて写真をいっぱい撮ってやる。
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