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「らしいと言えば、らしいね…」
巳緒が言うと
「巳緒ちゃん、智香から何か聞いてない?」
と縋るような目で訊いてくる。
「悪いけど…何も」
巳緒はちょっと申し訳なさそうに言う。
興味ないように言っていたのに、巳緒は本当にお人好しだなあと彰は呆れる。
そんなだから、水野さんの気持ちに引きずられちゃうんだよ…
まあいいや、俺たちのことはさておいて、と伊藤が彰と巳緒を眺めながら腕を組む。
「巳緒ちゃんと彰が俺に告らせようと画策してたみたいに、昨日は俺と智香もお前らをどうにかくっつけちゃおうと相談してたんだよね」
「えーっ」
彰と巳緒は声を揃える。
道理で…朝遅れてくるとか、行きたいところが全然違うとか、なかなか連絡とれないとか、不自然なところが多いと思った…
「って、じゃあ、智香は伊藤くんが好きっていう演技してたってこと?」
巳緒が思わず呟くと、伊藤は思い切りへこんだ。
「それは言わないでくれる?
その可能性については、蓋然性が高すぎて逆に考えないようにしてるんだから…」
頭を抱える。
「あ、ごめん」
巳緒が口を手で覆う。
「それで?何を話そうとしてたんだ?」
彰は先を促した。
ああ、と伊藤は気を取り直したように口を開こうとした。
その時「あ、皆ここだったんだ」と智香が現れて、伊藤の隣に座った。
バッグにダッフィーがぶら下がっていて、伊藤が判りやすくにやける。
「何の話?」
と智香が可愛らしく首を傾げ、伊藤は智香に身体を寄せ、智香の方を向いて話す。
「昨日、智香と俺が話してたこと。
彰と巳緒ちゃんって頑固だねって。
どう見たって相思相愛なのに、頑として友達スタンスを貫こうとしててさ」
「本当にね~。見ててイライラしちゃうのよねっ」
智香も伊藤の方を向き、二人でにっこり笑い合う。
あーあ。見てられない。
巳緒と彰は顔を見合わせ、ため息をつく。
昨日の続きか?
「智香はどうなのよ。
伊藤くんとつきあうの?」
巳緒がイライラしたように訊く。
途端に伊藤がぐっと緊張するのが判り、彰は笑いだしそうになった。
智香はえ~?あたし~?と微笑んだ。
「巳緒と彰くん次第って言ったでしょ?」
「だからそれはずるいって!」
巳緒は怒ったように言う。
彰は、智香は自分で決める子だから気にしなくていいと言っていた巳緒の言葉を思い出す。
なんだよー、智香ちゃん俺たち次第ってマジで言ってたんじゃん。
どうすんだよ…
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