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「あたしたちはあたしたち、智香と伊藤くんがつきあうのとは関係ないでしょう」
「だって。あたしと伊藤だけがつきあうってことになったら、昨日のダブルデートの意味ないじゃない」
「別に意味なくないよ。
彰は判らないけど少なくともあたしは楽しかったし。
智香と伊藤くんが昨日で上手くいったなら、それは何よりって思うよ。
そもそも、あたしと彰はそれが目的だったんだから」
女同士がにらみ合うような感じになり、彰と伊藤は顔を見合わせる。
どーしよう…お前何とか言えよ、いやお前がどうにかしろ。
目顔で言い合う。
伊藤が意を決したように智香に向き直った。
「俺は当事者だと思うから言わせてもらうけど…
俺は、智香が好きだからつきあいたいと思ってる。
彰と巳緒ちゃんの関係に智香の意思が影響されちゃうのはちょっと、悲しいかな…」
智香の大きな瞳にじっと見つめられ、言葉がだんだん尻すぼみになってくる。
情けねえ…彰は自分を棚に上げて思う。
智香は巳緒と彰をちらっと見ながら言った。
「昨日も言ったけど、あたしは伊藤が好きって言ってくれて嬉しいよ。
つきあってもいいと思ってる。
だけどこういうことでもないと、この人たち絶対自分に素直にならないから。
意地張って互いに違う人とつきあって、結局互いが気になって恋人と別れたくせに、まだ認めようとしないんだから…」
巳緒と彰は「それは違う」とこもごもに文句を述べながらも、智香の指摘に動揺を隠せなかった。
互いに彼氏彼女ができて、あいつは友達だと自分に言い聞かせながらも、相手が気になって仕方なかった。
様々な事があったけれど、互いの存在の大きさを再認識した2か月間だった。
だけど、その感情が何なのか、認めるのにはまだ時間がかかる。
きっかけが必要だと思う。
「確かに、智香ちゃんの言う通り、俺と巳緒は友達にしては異質かもしれない。
歪なのかもしれない」
「けど…そのことと俺らがつきあうかどうかは関係ないし、ましてや智香ちゃんと伊藤の恋愛とはまったく無関係だろ。
伊藤の気持ちに応える気があるんなら、どうか、俺たちのことは抜きにして、伊藤の気持ちにまっすぐに向かい合ってやって欲しい」
彰は智香の思いを有り難いと思いながら、今の素直な気持ちを智香に話す。
巳緒も彰の隣で頷いている。
彰は、巳緒もきっと自分と同じ気持ちだと確信する。
「あきらくんっ」
遠くで彰を呼ぶ大きな声がして、4人は声の方を振り向く。
詩織がこちらへ駆けてくるのが見えて、彰は動揺した。
なぜ…?
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