彰・1‐2

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 翌日の朝、俺は清々しい気持ちで目を覚ました。  酒を飲まずに寝ると、こんなに目覚めって気持ちのいいものだったか。  俺は支度をして少し早めに家を出て、爽やかな5月の陽気を感じながら駅まで歩いて行った。  改札を抜けると、大谷さんがいて驚く俺に抱きついてきた。  「おはよう♡待ちきれなくて来ちゃった」  俺を振り仰いで嬉しそうに言う。  彼女から甘い香りが漂ってきて、俺はなんだかドキドキしてしまった。  巳緒とは違う、香り。  「びっくりしたよ、ずいぶん早く家を出たんじゃないの?」  「うん、ママにどうしたの~って訊かれて、彼氏と行くのって言っちゃった」  と言って首をすくめてエヘヘと笑う。  そんな仕草も可愛くて、俺は腕につかまられたまま階段を登りホームに行く。  誰かに見られたら…という考えが一瞬、()ぎるけど、まいいかと思い直した。  カノジョと腕組んで歩いて、何が悪い?    そのまま大学へ行き、昼食を一緒に摂る約束をして別れた。  教室に向かっていると、智香ちゃんがいつの間にか横に並んで歩いている。  「彰くん、今の()誰?」  目敏い…いつものことだけど。  「誰って…」  彼女と言おうとして、智香ちゃんの表情を見て言葉を飲み込んだ。  智香ちゃんは怒っているような、悲しんでいるような、なんとも言えない表情で俺を見ていた。 「智香ちゃん…?」 「彼女、できたんだぁ。良かったね〜」  急にニコっと笑う。 「うん…」 「巳緒とも普通にしゃべってあげてねっ!  すごく気にしてたんだよ〜」  そう言って教室に走って行ってしまった。  何だろう…あの複雑な表情の意味を図りかねて、俺は立ち止まって見送った。  そしてはっとする。  っていうか、もう彼女ができたことバレた!  巳緒にも筒抜けだ…  早すぎるだろー!
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