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え?誰?
と、伊藤と智香はなぜか巳緒を見る。
巳緒は「彰の、彼女」と小声で言った。
えっ、と驚いて顔を見合わせる伊藤と智香を横目に、巳緒は詩織を見つめている彰の緊張した横顔を見遣った。
LINEをブロックされたと言ってた。
もう、連絡が取れないと。
だから、水野が巳緒の部屋に来た日に会うはずの約束を、すっぽかして以来のはずだ。
巳緒の心は心配と不安でいっぱいになった。
詩織ちゃんは彰に何を言うつもりなんだろう。
彰は、…詩織ちゃんにどう話すんだろう。
彰は駆けてくる詩織を見つめながらも、巳緒がじっと自分を見ているのを感じていた。
巳緒の前で愁嘆場は避けたい。
だけど…
彰はぐっと奥歯を噛みしめる。
今は、巳緒に助けてほしい。
俺に勇気を与えてくれ。
彰は立ち上がり、それにつられるように、他の3人も立ち上がった。
智香と伊藤が手を取り合ってそろそろと離れていく。
少し離れたベンチに座って、成り行きを見守るつもりのようだ。
詩織が彰の目の前に来る直前に、巳緒もはっとしたようにその場から離れようとした。
その巳緒の手を、彰の左手がぱっとつかむ。
びくっとしてつかまれた腕を引こうとする巳緒に、彰は詩織の方を見たまま「ここにいて頼む」と低く言った。
巳緒は驚いて彰の横顔を見つめた。
自分が水野と話し合いの約束をした日、彰に近くにいて欲しいと強く望んだことを思い出した。
そして、彰が汗だくで部屋に飛び込んできてくれた時、自分の心も身体もどれほど救われたかも。
巳緒は覚悟を決めて、彰に手をつかまれたままその場に留まった。
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