彰・1‐3

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 「巳緒もさあ、お人好し過ぎるだろ。  授業サボってまでやってやらなくても…」  「先生の都合で、突然休講になったのよ」  巳緒はコピーに目を走らせ、マーカーでアンダーラインを引いていく。  羨ましい。  つい、目で追っていると、巳緒は俺の視線に気づいてため息をつき、一番上の紙を「…見る?」と差し出してきた。    俺は恥も外聞もなく受け取る。  有難い。  巳緒はくすっと笑った。  「さっき智香から聞いた。  彼女ができたんだって?」  巳緒はまた次の紙にマーカーを引きながら、何げないふうに言った。  「そうなんだよ〜」  嬉しくてヘラヘラ笑ってしまった。  巳緒は呆れたように俺を見て「昨日、教室に来てた娘?」と訊く。  「いや、あの娘は彼女の友達。俺を呼び出しただけ」  大谷さんの親友なんだって。昨夜聞いた。  「ふうん。まあ、良かったね。  部屋ちゃんと片付けるんだよ。  あんなの見せたら嫌われるよ」   「また始まったよ、 巳緒のお節介。  わぁってるよオカン」  「その失礼な物言いやめてくれる?  19歳の乙女を捕まえてさぁ。  この、デリカシー欠如男」  「はあ?乙女ぇ?  俺にはオカン以外なにも見えんなぁ」  「一度眼科にお行き遊ばした方が宜しくてよ。  ついでにデリカシーも手に入ると良いわね」  俺は久しぶりの巳緒とのやりとりが嬉しくて、レポートのことなんか忘れてしまって昼になってしまった。  そうだ。この空気感。  俺は大好きだったんだ。  巳緒はやっぱり俺の親友。
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