巳緒・2‐1

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 彰の機嫌がやったら良い。  いや、機嫌が良いというより、浮かれている。  何を言っても言わなくてもヘラヘラしてて、はっきり言ってキモチワルイ。  まあ、あたしには関係ないことだけど。  あたしはため息をついて、書きかけのスクリプトのバックアップを取り、パソコンをシャットダウンした。    夏合宿までには何とか脱稿しないと。  春には、こんな状況になると思ってなかったから、彰とあたしの二人で脚本を書く!って部員みんなに宣言しちゃったからなぁ。    でもあたし一人になってしまってこの調子では終わるかどうか。  先行き不透明だ。  彰はデートとバイトが忙しいとか言って、殆ど部室に来なくなってしまった。  このスクリプトも一緒に書いていたのに…もうそんなこと忘れちゃったみたい。  この調子じゃあ公演にだって参加するかどうか判んないわ。    あたしは参考にしている文献や脚本を片付けながら、ふと思いついた。  水野さんに相談してみようか。  文芸部だし、英文学部だけど国文学も強そうだし。  よしそうしよう。  あたしはちょっと元気になって、部室を出た。  今日は4限が終わったら、水野さんからの提案で渋谷に行くことになっている。  学生課の掲示板の前で待ち合わせしていたので、先に着いたあたしは、暇つぶしにボードに貼ってあるアルバイトの求人情報を見ていた。  そろそろ、夏休みのバイト探さないとなあ…  球場のビールの売り子さんとかどうかな。  あ、でも神宮かぁ…野外は暑そう。  彰は夏休みどうするんだろう。  今のバイト先でシフト増やすのかな。  春休みはそうしてたし。  思わずのめりこみ真剣に見ていると、後ろからポンと肩を叩かれた。  「バイト探してるの?」  振り向くと水野さんが優しく笑っていた。
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