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「あ…えっと、夏休み期間中のバイト探そうと思って…
1か月半しかないけど」
照れて言いながら水野さんの方へ向き直ると、水野さんはあたしの大きなトートバッグをさりげなく持ってくれる。
「ああ、そういえば、僕の叔母がバイトしてくれる子探してたな」
思い出したように言う。
「え、何の?」
「三茶で小さなケーキ屋を営んでいてね。
今、来てくれてるパートさんの息子さんが、夏に手術することになったんだけど、まあ秋口には退院できるだろうってことで、夏休みの間だけ」
えーっ。
なんか、願ってもないバイト??
「大学の友達で誰かいないかって言われてたんだけど、そんな女友達居ないし、すっかり忘れてた。
まあ、気が向いたら考えてみて」
「ケーキ屋さんのバイトって、してみたい…」
あたしは両手で頬を押さえ、うっとり呟く。
「三軒茶屋なら近いし…
あ、でもサークルあるから、毎日は無理かも」
「うーん、そこらへんは僕にはなんとも…」
と水野さんは困ったように笑って、
「あ、じゃあ、これから叔母の店に行ってみる?」
とあたしの顔を覗き込む。
「え、渋谷は?」
あたしは驚いて訊く。
急に心臓がドキドキと大きく打ちだす。
「ああ、渋谷行きたい?」
「そ、うじゃないんだけど…
いきなり水野さんの叔母さまにお会いするのは、心の準備が…」
あたしが胸を押さえながら正直に言うと、水野さんは微笑む。
「叔母っていっても、母とは年齢が離れていて僕の姉みたいな人だし、気さくでざっくばらんな人柄だから、大丈夫だよ」
「そ、そう…?」
まあ、本当にバイトさせてもらうなら、いつかは会わなきゃいけないんだしね。
あたしは心を決めた。
「じゃあ…良かったら連れていって。
でも急で大丈夫かな?」
「判った。じゃあ行こう。
叔母も早い方が良いと思うから」
水野さんは機嫌よく言って、あたしの肩をポンと叩いて歩き出す。
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