巳緒・2‐2

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 学校から幾駅か電車で行って、三軒茶屋で降りる。  そこから10分弱歩いて、住宅街に差し掛かるあたりに、そのお店はあった。  お、っしゃれ~…  あたしは立ち止まって、ぽかんと口を開けた。  『Premier』と洒落た筆記体で書かれた看板が掲げてあり、大きなオーバル型のガラスをはめ込んだ扉の前には素敵な寄せ植えの鉢が置かれ、背の低い黒板が立っていてお勧めのケーキが描いてある。    「叔母は厨房かな?」  水野さんは言いながら、あたしの背を押して扉を開けた。  ふわっと甘い焼き菓子の香りがして、あたしは思わず笑顔になる。  お店全体に明るい色調の木材が使ってあり、いかにもパティシエールのいる気取らない優しい感じのお店だった。  「いらっしゃいませ~」  大きなガラスのショーケースの向こうから、女の人が明るい声をかけてくれる。  「こんにちは。  侑都(ゆうと)ですが、叔母は中にいます?」  水野さんがにこやかに挨拶すると、小さなタイの着いた可愛い白いシャツを着てベージュの可愛らしい帽子を被った女の人は、笑顔になった。   「あら、侑都くん!  ちょっと待ってね、麻理さん呼んでくる」  奥の厨房に繋がっていると思しき扉を開けて、女の人は「麻理さん、侑都くん来てますよ」と声をかけながら入っていった。  あたしは吸い寄せられるようにショーケースに近づいてケーキに見入った。  「わぁ…綺麗。美味しそう…」  どれも宝石のように輝いて、「EAT ME!」と言っているようだ。    きっと彰なら…このガトーフロマージュかな。  あいつ酒飲みのくせに甘党だから。  チョコレートケーキつまみにウィスキーとか平気な奴だし。  見てる方が気分悪くなる。    水野さんはあたしの隣に並んで、一緒にショーケースを覗き込む。  「どれがいい?ご馳走しますよ」  「え、えーっと…どれも美味しそうで…決められない~」  あたしが水野さんの方を見て言うと、水野さんはあたしの頬をつついて「そんな顔で言われたら、全部どうぞって言いたくなるな」と笑う。
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