巳緒(みお)・1‐1

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 「あんたはとにかく、レポート書きなさい!  このテーブルの上は片付けたから。  ちゃんとテーブル拭いてからよ?!」    あたしがガミガミ言うと「判ったよ~オカン」と言ってシンクで布巾を洗い出す。  誰がオカンよ!花の19歳を捕まえて失礼なっ!  あたしはブリブリ怒りながら、とにかくゴミを集めて回り、汚れた食器をシンクに入れる。  彰は勝手にあたしのトートバッグを漁り、レポートを引っ張り出す。  おお、すげえと言いながらタブレット端末も出した。  「このタブレット、借りていいって話?」と嬉しそうに言う。  彬のPCは、借金のカタに先輩に奪われたまんまだ。  もうとっくに売りさばかれてるかもしれない。  「バイトしたお金貯めてやっと買ったんだから!大事に使ってよ!」  あたしは大車輪で食器を洗いながら言う。  食器なんて言っても男の一人暮らし、数はたかが知れてるのですぐに終わる。  シンクとレンジ周りの汚れが気になる…  でも今日はそこまでやってられない。  小さな冷蔵庫を開けて中を見る。  やっぱりロクなもん入ってないなあ。  仕方なく、小麦粉と砂糖と卵とちょっとヤバそうな牛乳で簡単にパンケーキを作り、ソーセージとなんとか使えそうだったキュウリを添えた。  色の変わったレタスとトマトは悪いけどバイバイ。  コーヒーを淹れて彰のところへ持っていくと  「ぅわお!さっすが巳緒さん!素晴らしい~」と大袈裟なリアクションで食べ始める。  タブレットにスマホがつないであるところを見ると、とりあえず少しは自分でやってたんだな。  スマホでレポート…ってなんか哀れ。  あたしはコーヒーを飲み干し、立ち上がって掃除機を取り出した。  座ってると足元がザラザラして異様に気持ち悪い。  「ちょっと巳緒さん…お気持ちは有り難いんですが…俺まだ食事してんです」  「よくこの気持ち悪い床に座ってのんびり食事なんかできるわ!  はい、どいてどいて!」  「げーっ!横暴反対!」  彰は皿を持って立ち上がり、立ったまま食べ始めた。  行く先々で立ちはだかって邪魔する彰をどかしながら、あたしは綺麗に掃除機をかけた。  「ごちそうさまでした。美味しかったっす」 と彰はシンクに食器を置いて小さなキッチンを眺め  「いつもながら鮮やかな手際だね~」と感心したように言った。  「お世辞はいいから!さっさとレポートやる!」  「イエッサ!」と彰は敬礼の真似をしてテーブルの前に座って書き始めた。  あたしは洗い物して片付けて、彰の向かい側に座る。  反対側からタブレットの液晶画面を覗き込むと「あ、巳緒、もう学校行かなきゃ?」と訊いてくる。  「あたしは今日、二限からだから…。それ、コピーだからあげる」 と言うと「ありがてぇ…じゃあゆっくりやろ」とコーヒーを飲む。  「ちょっと!そういうつもりならあげない!」と取り上げようとすると 「おっと!渡すわけないでしょ」とぱっとレポートを持ちあげてニヤニヤした。  腹立つ~!
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