衝撃の事実

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こいつは頭がいい分、言葉が足りない。 特に俺に対して話すときは、気を遣ってないから特にだ。自分の頭の中にあることをそのまま言葉に変換して口にするから、こいつの頭の中のスピードについていけないと、何を言ってるかちょっとよくわからないことがある。 一応、言ってることは理解した。 でも、俺も色々考えて大学オケに入らなかったわけで、慎太郎の提案がどういう意味で出てきたのかを理解しないと、返事が難しい。 だって今のところ俺は、楽器を弾くことにこれからの時間の多くを割くつもりはないから。 そもそも、大学オケに入れば部の楽器が使えるけど、自分たちでオケを立ち上げたところで楽器がない。これは俺たちコントラバスと打楽器パートに共通の問題なんだけど。まぁそれはいったん置いといていいや。 慎太郎と一緒に動くメリットが、俺にあるかどうかってことだ。 楽しいってこと、以外にだ。 「…慎太郎って、そんなにオケ好きだった? なんで大学オケに入らなかったの?」 もし、俺とまた一緒に演奏したいとか、そんなことを言い出すのであれば、『一緒に大学オケに入ろうぜ』っていう提案になるんじゃないだろうか。 答える前に、どうして突然こんな話が湧いて出たのか知りたくて、素朴な質問を投げかけてみると、慎太郎の整った顔がふっとそらされる。 俺に照れてるんじゃないのは、当然わかってる。 こいつがこういう表情をするのは、多分齋藤がらみだ。 高3の夏合宿でこいつが自分からカミングアウトして、俺はそこで初めてこいつの片想いに気づいたんだ。知ってて見れば、本当に分かりやすくいつも齋藤を目で追ってた。 俺たちはいつも四人組で行動してたのに、どうしてそれまで気づかなかったのか不思議に思ったくらい。 でもそのまま受験準備に突入して…それ以来、個人的に相談を受けたり聞いたりすることはなかったけど、多分慎太郎はそのまま動かなかった。 俺たちに隠す必要なんかまったくないんだから、陰でこっそり付き合ってる…ってことはないと思うし。 逆に伝えて断られたとか、そんな感じの雰囲気もなかったから。 卒団旅行の時は一方的に俺ばっかり背中を押してもらって、自分のことで精いっぱいで、慎太郎を応援してやるどころではなかったんだけど… そして慎太郎の珍しいおせっかいを、俺はすべて無駄にして終わってしまったんだけど。
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