衝撃の事実

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慎太郎からは「頼むから何もしないで、今までと同じように」と言われたんだったっけ。 慎太郎は、高校時代におそらく月平均二人くらいからの告白を受けている。 上級生から言われることが比較的多かった奴だ。その分、三年になってからは少し落ち着いていたようにも見えたけど… それを全部、全く相手にせずにバッサバサと断り続けた男。 当然、斎藤を狙うと公言したからにはすぐに落としにかかるんだろうと思っていたのに、夏合宿から一週間たっても二週間たっても何も起こらず… 同室だった男連中と、あの夏合宿の一夜は夢だったのかとコソコソ話し合ったこともある。 一番近くにいた俺も佐々木も、慎太郎に突っ込むのは結構勇気がいることだったから、本人には何も聞かなかった。 唯一慎太郎に普通に絡める青木も、わざわざ寄って行ってまで聞くほどでもなかったらしく、そのまま数か月。 そして卒業。 みんな人生がかかった受験を目の前にして、必死だったしな。正直人の恋路どころではなかったというのもある。 俺個人に関して言えば、自分のことでもう手一杯だった。 勉強は、すればするほど力がついていくのがわかるだろ? テストの点数だって上がったり下がったりするけど、全部自分の努力の結果だと思える。 楽器だってそうだ。 練習すればするだけ上達するのがわかる。 努力は裏切らないって、本気でそう思えるんだ。 でも人間関係って…頑張ってもうまくいくとは限らないし、下手したら逆効果にだってなる。 本当に、難しい。 毎日授業時間は同じ教室にいられて、部活はなくなっちゃったから、授業が終わったら仕方なく『また明日』と言って別れて。それぞれ塾に行ったりして、夜まで勉強して。 でもまた翌朝学校にいれば会える。 それで満足しようと思った。 だって、俺が強引に動いてもしうまくいかなかったりしたら、勉強のペースを崩すのも嫌だし…それ以降、クラスメイトとしても仲良くできなくなるのはもっと嫌だったから。 だから、何もしなかった。
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