プロローグ~Side 慎太郎

4/6
47人が本棚に入れています
本棚に追加
/390ページ
高三の夏のオケ合宿で、俺は青木の誘導に意識的に乗って、若菜を狙っていることを公言した。 その時点では、本番後に動く覚悟をしていたはずだったんだけど…。 なんで何もできなかったんだろうな。 二人で話すチャンスは、結構たくさんあったはずなのに。 ああ、本番後の帰宅途中にどこか寄り道に誘ってと思ってたのに、大泣きしてる川北を連れて若菜がどっか行っちゃったんだ。 あの時は、何でさっさと川北を拉致しないんだって、内心健太に八つ当たりしたな。 俺は、決めたことはきっちりやる方なんだけど、逆に何か事故が起こって決めたことのレールから外れたときに、とっさの対応が下手。 中学時代のトラブルも、そんな俺の融通の利かなさが一因だ。 ただ、最後の演奏会を終えて部を引退したら、もう大学受験目前だったのは確かだ。 時々窓越しに、志望校をどうするみたいな話はしたけれど、若菜は見事に、俺の「そういう雰囲気」を察知して、かわし続けていたように感じる。 つい先日卒団旅行に行った時も、健太と川北を二人にしようとして若菜から俺に寄ってくることは多かったが、なんとなく俺が若菜との距離を詰めることは拒否されてるような気がして、動けなかった。 付き合いが長い分、相手のそういう心のうちは何となく察してしまう。 結局、そういうことなんだろうな。 若菜は俺を、ただの幼なじみのままにしておきたがってる。 そして俺は、若菜のそんな態度を言い訳にして、自分が傷つくことを避けてきた。ただの同級生としてでもいいから、傍にいたくて。 玉砕覚悟で俺に向かってくる名前も知らない女子のことを、俺は何とも思わないけど、ダメだとわかっていてぶつかってみるその勇気は少し…うらやましい。
/390ページ

最初のコメントを投稿しよう!