プロローグ~Side 慎太郎

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さて。 プライベートでは全然うまくいっていないけれど、そんな事情はお構いなしに日は過ぎていき、大学の入学式を迎えることになる。 大学に入学してまずすることは、講義の登録だ。 こういう作業はお手の物。登録期限はまだまだ先だが、面倒なことほどさっさと終えたいタイプなので、資料を入手した初日のうちに手続きを済ませる。 俺はストレートで国家公務員試験をパスするつもりでいるから、一年次から取れる講座を取れるだけ取って、3年次以降のコマ数を減らす作戦でいる。 サークルには入らない。楽器ならカラオケ店で一人で吹けるし、天気が良ければ都立公園に行ってもいい。 中学の頃、何度か公園での練習に若菜を誘ったことがあったな。まだ関係がおかしくなる前。俺が木陰でペットを吹いてて、足元に引いた敷物の上に若菜が座って読書をしてた心地よいシーンを、まだ覚えてる。 そうそう、高校の部活仲間、ベースで部長も務めた速水健太が、同じ大学の教育学部に入学している。 人当たりが良くてしっかりした奴なんだけど、こいつがまたヘタレで。三年間フルに片想いしてた川北に、何も言えずに卒業しやがった。 最後には卒団旅行の名目で一泊二日の時間を用意してやり、常に二人で行動させるようにあらゆる手を尽くしたのに。この俺が。 他の仲間たちだって、気を使って俺たちにはあまり近づかないようにしてくれてたのに。 いや、俺も人のことは全然言えないんだけど。でも俺には、言えない理由と歴史があって。 健太はただ単に、自信がなくて言えなかっただけ。さっさと動けば勝算はあったような気がするんだけどな。 あそこまでしてやって動かないのであれば、悪いがもう俺は知らん。 若菜から頼まれたりしたら、どうにかするかもしれんけど。 そんな感じで卒団旅行の後、そういう意味ではちょっと健太を見限った。 学部も違うし、俺には若菜が、健太には川北がいない世界なんだから、俺たちが二人でつるむことももうないんだろう。 …と思ってたんだ。 春休みの最初の方までは。
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