プロローグ~Side 慎太郎

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俺は4月に入ってから、一つの計画を温めていた。 やっぱり若菜が欲しい。 通う学校が離れて、自分の気持ちにはっきりと気付く。 俺に、正面から向かってきた昔のあいつに戻って、隣にいてほしい。 男同士みたいな幼なじみとしてではなくて、同級生としてでもなくて。 ただ一人の女として。俺の恋人として。 いや、だったら高校のうちに動けよって、俺だって思うよ。 毎日教室で会えるうちに呼び出せばいい。行きも帰りも同じような時間だったんだから、駅で待っていれば必ず毎日会えたんだ。 言うな、わかってる。 でもな。 理屈じゃなく怖かったんだろうな。若菜に決定的にフラれることが。 同級生として一番近い位置にいられるというぬるま湯を、俺は捨てられなかった。タイムリミットでそれをなくすまで、いやなくしても、自分から捨てて勝負に出ることができなかった。 卒業するとき、俺はもうちょっと時間をかけて若菜との関係を改善していこうと思ったんだ。これからもちょくちょく会えるだろうし、少しずつ俺が歩み寄りを求めていけば、若菜の心のしこりがほどけていくんじゃないだろうかって。 でも、甘かった。 若菜は、CAをめざしてミッション系の私立大学に進学を決めていている。 時々だけど、入学準備やらなんやらで出かける若菜を遠目に見かけるたびに、驚くほどあか抜けていって。 いや、あれは普通に大学入学と同時に男に狙われるだろう。 強気な若菜ではあるけれど、俺が傍にいない状態で…何かあったりしたら、俺は相手に何をしてしまうかちょっとわからない。 たとえ、仮に若菜の同意があったにしても、だ。 高校までは、しっかりした女子にあこがれるのはおとなしめの男子か後輩だった。だから俺がにらみを利かせていれば、そいつらは動かなかったんだ。 でもこれからは違う。 大学には三学年上までの男が存在しているし、サークルやらゼミやらとなれば学外の人間も関係してくるかもしれない。 そして俺は、若菜のそばにはいられない。 うん、若菜が恋人を作る前になんとかしないと。 自分のやばい精神状態を自覚して、犯罪を犯す前に状況をただした方がいいと決めたのが、数日前のこと。 大学入学までの間に大体の計画を立てて、入学式から数日後の構内で、俺は健太を捕まえた。
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