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プロローグ~Side 慎太郎
「好きです。付き合ってください」
今年は春の訪れが早くて、卒業式にもかかわらず上着がいらないような陽気だ。もう、桜もちらほらと花をつけ始めている。
幸い花粉症ではないので、季節的には心地よい。
…のだが。
定型文のような告白に、卒業証書の入った筒を持ったままの俺は、相手に気づかれないようにため息をつく。
高校の入学式翌日から、ちょくちょくとこういうことはあったが、卒業式の後までとなると、いささかうんざりする。
漫画のようにボタンを引きちぎられたりはしていないが、早く部活の集まりに合流したい。
それでなくとも最後まで卒業生代表として壇上でしゃべらされて、疲れてる。
俺はそういうのに慣れてはいるけど、別に好きなわけじゃない。
心の中は全然優等生じゃないし、結構好き勝手なことを思ってるから、そういうのをおくびにも出さずにいい子面して他人と付き合うことがあまり長く続くと、自分の心が疲れる。
俺自身でいられる場所に、早く帰りたい。
人前に出るときは、ある意味その役割を演じている。
「生徒会長」の顔や行動、「卒業生代表」の顔と言葉。
求められていることをして、求められていることを話す。それは別に俺じゃなくてもいいことなんだ。
高校三年間で親しくなった数人の男友達の顔が浮かぶ。
あいつらだって、やれと言われれば俺と同じことが普通にできるはず。
元生徒会長が卒業生代表を務めるってのは、留学やらなんやらで不在でもない限り、例年決まってることだから、仕方ないとは思っているんだけど。
今ここに俺を呼び出して、好きだと言ってきたのが、たった一人のあいつなら、どんなに幸せな気持ちになれるんだろう。
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