一章 あにおとうと

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僅か十二歳の王子が償いの気持ちから動き出し、僅かではあるが国が改善された。その結果、アンリの評判は益々良くなるのであった。他にも、病院の増設・臣民に対する無償化、識字率向上のための学校の建設、農地改革、など、アンリが平民の目から見ているからこそ出来る進言によって国の改革・改善は一歩一歩進められているのであった。 その改革・改善の裏側には文武両道たる第二王子アンリの進言があることは臣民皆が知っていた。 その結果、第二王子アンリは第一王子のジャックよりも圧倒的な人気を持つようになったのである。 第一王子ジャックはそれを苦々しい顔で歯ぎしりをしながら見つめることしか出来なかった。挙句の果てにはメアリに「次期国王はアンリ王子の方が相応しい」と進言する大臣の姿を目撃し、ジャックは狂い始めた。メアリは「次期国王はジャック! それは絶対揺るがない!」と大臣を怒鳴るが、いつ心変わりするとも限らないと疑心暗鬼を生ずるのであった。 ジャックは醜く太った体を姿見に映し、考える。「自分は何故臣民に嫌われ、弟ばかりが好かれるのだろう」と。平民を物の数と思わない、心技体全てにおいてアンリに負けている、嫌われるには理由があった。だが、ジャックはその理由に目を向けずに臣民が自分を嫌うのは何かの間違いで不条理なんだと思いこむようになっていた。愚者ほど、自分が愚かである理由に気が付かない。 それを絵に描いたような男であった。 嫌われ者程、自分が嫌われる理由に目を向けないものである。 弟に対する劣等感(コンプレックス)は愚かな怪物(フェノメノン)の目覚めを促す……
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