序章

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城の騎士が討伐に向かうも、これまでの被害者と同じように屍を積み重ねるのみ。遂には聖騎士(パラディン)の父親である騎士団長までもが失踪の後に、内臓(はらわた)を全て抜かれた惨死を迎えることになってしまった。 すっかりと軽くなってしまった父の屍を前にして聖騎士(パラディン)は涙が枯れるまで目を泣き腫らした。そして、女王に敵討ちのために森に入ることを志願したのだった。 「そなたの父は優秀な男であった。その父に負けることなく、雄々しく戦い、魔女の首を妾の前に捧げよ」 女王のその言葉を胸に聖騎士(パラディン)は魔女討伐の命を受けて森の奥に入り、そして今、魔女の家の前にいるのであった。 聖騎士(パラディン)は剣を引き抜き、扉の前に立ち、扉を蹴り開けた。 バンっ! と、言った音が魔女の家に響き渡る。魔女は慌てて扉の方に振り向いた。 「貴様がこの森に巣食う人食い魔女か!」 聖騎士(パラディン)は剣の切っ先を魔女に向かって構えた。魔女は手に持っていた紫色の粉の入った小瓶を煮立つ鍋の中に入れ、その下でこうこうと火を放つかまどに手をかざした。 「ヘスティア・イン・ギヴィン・プロメテウス・ハケット・ヒッツィ」 すると、かまどの中でこうこうと燃えていた火は蛍の光が消えるようにゆっくりと萎むように消えていった。それを見た聖騎士(パラディン)は腰を抜かして驚きそうになるが、剣の柄を力強く握りしめ気を落ち着かせる。 「火から目を離すとお家が燃えちゃうからねぇ。火ぃぐらい消させておくれな」 「貴様! かまどの火を瞬く間に消すとは! やはり悪魔と睦みし魔性の力を手に入れし魔女であるか!」 「大神様の姉君のかまどの女神様と、我々人に火を与えし先んじて考える慈悲深き神様に語りかけただけのこと。魔性の力なんかじゃないよ」 魔女は踵を返した。その顔を見て聖騎士(パラディン)は驚いた、魔女の顔が見目の麗しい美人だったからである。それは美女神(アフロディーテ)を思わせる程の美しさであった。 綺麗なバラこそ棘は鋭い。このような美女が何故にこのような森で怪しい薬を煮ているとは明らかに不自然でありえない。例え美しい魔女であろうと人食いの野蛮な女に違いない。 聖騎士(パラディン)は魔女に叫んだ。 「何を宣うか! 貴様のようなものに気高く美しい神々が耳を傾けるわけがなかろう!」 「そなたたちは祈りの時に礼拝堂で語りかけるか、困った時にしか神々に語りかけることしかしないであろう。それでは神々も耳を傾けぬよ」 「何をわけの分からぬことを!」 聖騎士(パラディン)は剣を振りかぶり、魔女に向かって走った。剣の刃が魔女に届かんとした時、魔女はゆっくりとした動きで剣を掴んだ。聖騎士(パラディン)は何度も何度もその刃を力一杯押し込むが、ピクリとも動かない。
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