序章

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「何という馬鹿力だ…… この英雄ヘラクレス並と称された剛力の我が押されるとは」 聖騎士(パラディン)は王国にて一番の怪力の持ち主であった。女王始め、王国民達は聖騎士(パラディン)をヘラクレスと称していた。 「大神様の子でもなければ、神母乳(ソーマ)を飲んだわけでもないのにヘラクレスを名乗るでないわ」 魔女は剣を摘んだ指を軽く弾くように振った。聖騎士(パラディン)は激しく回転しながら吹き飛ばされてしまった。魔女は指で摘んだ剣の刃をじっと眺める。そして、ゆっくりと薬指を刃に当てて撫でた。すると、剣が青白く光り輝き出した。 「聖騎士(パラディン)とやら、お主の剣に染み付いた青白き光を見るがよい。その光は人の血が光と成したものであるぞ。その数、数十とも数百である。この辺りで(いくさ)があったとは聞かん。何用にして人を切ったか答えよ」 「魔女ごときに語る舌は持たん!」 「その舌を口ごと縫い合わせてやろうかい? 喋る気がないなら、そんな口はいらないだろう? 舌というのは話すためにあるもんさね」 魔女はどこからともなく針と糸を取り出した。それを宙に浮かべて針の穴に糸を通す。 「女王の命令だ! 税金を払えぬもの、女王に不平不満を吐かすもの、皆、切ってきたのだ!」 「であるか。では何のためだ?」 「正義のためだ!」 「その正義とは何だ? 国に対して都合の悪いものを消すことが正義か? 女王の命令とは言え人を殺めることを疑問に思わなかったのか?」 「思わん! 女王の命令は絶対なのだ?」 「そなた、宮廷道化師(ジョーカー)が使う人形(マリオネット)と変わらぬな」 「貴様! 誉れ高き聖騎士(パラディン)をあのような人を嘲笑(わら)われ者の道化なぞと一緒にするな! 聖騎士(パラディン)に対する侮辱に加え、女王の命までも侮辱するとは! 万死に値する!」 「やれやれ、人様の命を殺めておきながら誉れ高きとは聞いて呆れる。耳と口に優れし王かつ、民草を守護する騎士である、聖騎士(パラディン)を名乗るのも烏滸がましい」 「うるさい! 人食い魔女が!」 「あれ? 誰が人食い魔女とな? 私は人を食ったことなど一度も無いよ。大方、こんな森の奥に住んでいる魔女という前提で言っておるのであろう」 「黙れ! 魔女! 覚悟しろ!」 聖騎士(パラディン)は腰の裏に仕込んでいた短剣(ナイフ)を出した。それを逆手持ちにして魔女に飛びかかる。魔女はそれを見て聖騎士(パラディン)をギロリと睨みつけた。 その瞬間、金縛りにかかったように聖騎士(パラディン)は動きを止めた。
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