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「貴様、何を……」
「人様に刃物を向けてはならぬと母君から教えてられてはおらぬのか」
魔女は長い爪の付いた人差し指を くい と上げた。すると、聖騎士はふわぁりと宙に浮かび、右手に持っていた短剣を落としてしまった。
「下劣な魔女め! 我を食らうつもりか!」
「やれやれ、人が人を食べると人成らぬ者へと身を落とし、心も人成らぬ者を窶す。そんなことはしないよ」
魔女は聖騎士の元へと近づき、猫の喉を撫でるように聖騎士の顎の下を優しく撫でる。
「あまり良い剃刀を使っておらぬな。剃り残しのお髭がチクチクとするではないか」
「は、離せ!」
魔女は聖騎士顎の下から胸元の鎧に指先を移し、銀の板金鎧を引き剥がしていく。
「き、貴様! 魔性の者では触ることすら出来ぬ銀に触れるとは!」
「単純な話、私が魔性の者じゃないと言うことだよ。そもそも魔性の者が銀を嫌うと言うこと自体がお主らの思い込みではないのか? 大方、獣がキラキラ光るものを怖がるせいから出る偏見であろう」
「な、何を世迷言を宣う!」
「そうそう、先程から聞きたいのだが……」
「何を言うか!」
「魔女とは何か? 私はただこの森の奥で住んでおるだけであるぞ。森の奥に住み、黒き衣装を身に纏い、怪しげな薬を笑いながら煮立てるだけで人に迷惑はかけてはおらぬぞ」
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