一章 あにおとうと

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一章 あにおとうと

城の広場にて木剣と木剣が打ち合う音が響き合う。木剣を切り結び合うのはこの城の双子の王子二人。 兄の名はジャック。アルファード王国王位継承権一位の王子である。母である女王の過剰なまでの寵愛を受け、男ながらに蝶よ花よと育ち、極めて自己中心的かつ我儘な性格で悪辣な言動が多く、民を民と思わずに欲に塗れた暗愚な男。当然、臣民始め城の家臣からも評判は最悪と言えた。 とある家臣曰く「ジャック様が王になればこの国は終焉(おわ)りを迎える」 弟の名はアンリ。王位継承権二位の王子で、ジャックの双子の弟である。理由は分からないが母である女王の愛を一切受けることなく、生まれてすぐに兵士長の元に養子に出された。厳格な兵士長の元で育ったおかげか、民のことを考える心優しい男に育った。 当然、臣民初め城の家臣からも評判は最高と言えた。 とある家臣曰く「アンリ様が王になれないのは不条理だ」 「剣が軽いぞ!」 ジャックはアンリに向かって木剣をしっちゃかめっちゃかに振り回す。何も考えずに只管に振るだけである。三歳から剣を握り、十二歳の今になるまで教育係より剣を教えられているが未だに腕はいまいちであった。つまり、剣の才が全く無いのである。 アンリはジャックの振る出鱈目素人剣法を全て受け流していた。アンリは兵士長の元で剣を基礎の基礎から学んでいた為に剣とは一心同体と呼べるぐらいの腕前となっている。ジャックの相手をするのは子供の相手をするようなものである。下手をすれば目を瞑っていても出鱈目素人剣法の間を潜り抜け、斬撃を肥満たる腹に与えることも、団子のように膨れた頭を割ることも可能であった。だが、あえてそれをせずにジャックの攻撃を受け流していく。 この二人をテラスより見つめる者がいた。この国の女王、メアリである。 メアリは無駄に豪華な装飾のされた扇で息子二人の切り結びを眺めていた。自分が寵愛するジャックが押しているのを見てご満悦と言った感じに笑っている。 「ほう、ジャックの嵐のような猛攻にアンリは何も出来んではないか」 メアリの横に跪く男、兵士長リックである。リックはメアリの言うそれを聞いて心の中で「目が節穴女王めが」と小馬鹿にしていた。ジャックとアンリの剣の実力差は、実際に剣を振る者から見れば圧倒的な差があるのは明白だった。アンリはその実力を隠し、ジャックに母の前で良い格好をさせるために手加減をしているのだった。兵士長リック初め、この城にいる大半の者はそれを見抜いていた。気がついていないのは女王メアリとジャック王子のみである。 「そろそろ、かな」
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