一章 あにおとうと

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その後、アンリはジュリアに本格的な償いをするために動き出した。早朝に花を供えるだけでは何の償いにもならないと分かっていたアンリは「賠償金」と「謝罪」の二つを国にさせること考えた。まず、後者であるが城の人間はともかく、メアリもジャックも謝罪をするような者では無いことは肉親故によく分かっていたのですぐに除外の流れとなった。 「賠償金」を捻出するためにメアリとジャックに知られぬように大臣や城の学者達に掛け合う。その掛け合いは財政管理者の耳に入り、財政管理者が城の余剰金から「賠償金」を捻出し、手にすることが出来た。当然、メアリに知られれば死刑相当の罪であるが、城の者皆が黙っていればバレないこと。アンリ王子の手でジュリアに「賠償金」が支払われる流れとなった。ちなみに当時の平民からすれば一族郎党の栄華が約束される程の大金である。 「たとえあの城全てを金にしたとしても償えない程の罪だ。人の命を奪うと言うのはこれぐらいの罪である」と、言いながらアンリは城下町を見下しきったように見下ろす白亜の城壁をちらりと見た。 「アンリ王子…… もう結構です。我が子への償いを口にするのはもうおやめ下さいませ」 「そう言ってくれると我の心も少しは楽になる。二度とこのような過ちを繰り返さぬために御者を免許制にし、馬の扱いに長けぬ未熟者が乗れぬように法整備をするように城に進言するつもりだ」 「王子がそのようなことまで……」 「この度は兄のような未熟者が下らぬ好奇心で馬車に乗ったことが原因であるぞ。ならば法を整備し、未熟者が馬車に乗れないようにすればいい。ジュリアの子のようなものは増やしてはならん」 「あ…… ありがとうございます……」 その後、馬車の御者は免許制となり、例え王族や貴族であろうと免許がないと馬車の御者になることは出来なくなった。城の郊外にある牧場には御者になるための学校が作られ、非常に厳しい試験を乗り越えないと御者の免許は取得することが出来ない。そのおかげか、馬車によって人が轢かれる事故は減ったのである。 尚、メアリとジャックはこの法案を良く分からずに通してしまった。ジャックに至っては「馬車に轢かれて死ぬ臣民が減るのはいいことだ」と、宣う始末である。
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