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序章
月が闇を照らす丑三つ時のこと、一人の聖騎士が頼りない月明かりを頼りに薄暗い森を一人歩いていた。
道なき獣道を踏みしだき、その道を塞ぐ草葉を聖剣で切り払う。
聖騎士は歩いても歩いても同じ道が続くことにうんざりとしていた。
しかし、本懐を遂げるためにもうんざりとはしていられない。森を進むと、聖騎士の目の前に篝火が見えてきた。ついに見つけた…… 聖騎士は口端を上げて喜びを露わにした。
篝火は木造りの平屋建ての一軒家を照らしていた。思っていたものと違い、聖騎士は拍子抜けした。なぜなら子供向けの童話で描かれたお菓子の家を想像していたのに、実際は丸太をいくつも組み合わせた平屋建ての一軒家、童話もアテにはならないものだ。そう思いながら聖騎士は剣を鞘から抜いた。剣は月明かりに照らされ光り輝く、枝を切り刃も欠けず、草葉を切り緑色の樹液の染みもついていない、新品同様である。これなら「やつ」を斬るのも不足は無い。聖騎士は安堵した。
一歩…… 一歩…… 聖騎士は目の前にある家へと近づいて行く。身を低くし、窓の下に隠れる、そして首を上げて窓から家の中を見る。
「いた」
家の中では、後ろに曲がった真黒な尖塔帽子を被り、それと同じ色の外套を纏った女が目の前の壺に入れられた得体の知れぬ液体をグツグツコトコトと煮込んでいた。女は木製の長尺のスプーンでゆっくりゆっくりとそれをかき混ぜている。
間違いない、あんな不気味な液体を混ぜる者なぞ魔女の他にはいない。聖騎士は生唾をごくんと飲み込み、剣を握る手にも気合と力が入る。
そう、聖騎士はこの森に住まうと言う魔女の討伐を命じられてここまで来たのである。聖騎士はこの森より僅かに離れた王国に勤める騎士であり、剣の腕は王国で一番、父も王国にて兵士長を勤めており、その父から正義感を受け継ぎ、聖騎士になったのである。
聖騎士が所属する王国であるが、最近、とある事件に頭を悩ませていた。
王国民の連続殺人事件である。森に入った者がいなくなったかと思えば、全身を何かに食い散らかされたような死体で発見されるのである。始めは野犬や熊のような獣の仕業かと思われたが、城の医者が死体の見聞をしたところ「これは人為的なものである」と、断言し、城の女王も「そういえば、あの森には人食い魔女がおる」と言ったことで、王国民の連続殺人事件は森に住むと言う魔女の仕業であると結論がなされた。
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