店長とモグラ料理

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店長とモグラ料理

今日は、ドライブ。バイトの仲間と。 俺が車を出した。運転もしている。 メンバーは、俺、そして俺の面倒をよく見てくれるいい先輩、それと俺の後輩、そしてもう一人・・・ そう、店長。 俺たちのバイトの店長だ。  この、四人でドライブに行った時の話です。 先輩のモグラ料理の話が的確で注文を忘れてしまったていたが、やはりモグラのセイロ蒸しは外せない。 みんなのモグラの朴葉味噌と肝揚げ汁を注文してから少し経っていたが、 俺は「そういえば別にモグラのセイロ蒸しも頼んでいいですか。」と一応店長に伺いを立てた。 「なんでもいい、好きなものを頼め。」と店長は言ったが、 先輩は「お前、さっき高速でソフトクリーム食ってまだ食うのかよく食うな。」と言った。 俺は食べる量よりもモグラのセイロ蒸しを此処で体験しなければその後一生後悔するだろうと言う方が先に立っている。 「セイロ蒸しは一度はたべてみたかったから、みんなで分けましょう。」と遠慮にもならない遠慮をして言ったが、皆んなの反応はイマイチだ。 先輩は「俺はいいから、店長よかったら食べてください。」と言った。 その、店長を(ないがし)ろにしない体をすぐに自然に作れる先輩は流石だ。 店長は「俺はいい、お前らで食え。」と俺たちに振ったが、 後輩も「僕もいらないので皆さんで食べてください。」と相変わらず素っ気なかった。 俺はある程度「皆がいらない」と言うことは予想していたが決まりとして 「皆さんセイロ蒸しいらないですか。」とみんなに聞き返した。 店長は「俺はいい。お前が食いたかったら頼んでいいぞ。」と言って、 先輩も「お前が一人で食えばいいじゃん。」と言ったので俺はめでたくモグラのセイロ蒸しを注文した。 そうこうしている間にモグラの朴葉味噌と肝揚げ汁が運ばれてきた。 俺も先輩も「店長どうぞ。」と言って最初に店長の前にお膳が来るように料理を置いてもらった。 店長は「俺からでいいのか。」と前に置かれた料理を前にと言ったが、さもありなんだ。 そして皆んなの前にモグラの朴葉味噌と肝揚げ汁が並んだ。 朴葉味噌は大きな朴葉の上に、田舎味噌と絡み焼かれたひと口大に切られたモグラの肉とシシトウが乗っている。 肝揚げ汁は、肝を潰してつみれ揚げの様にされた肉が、花型に細工されたニンジンと三つ葉と乾燥シイタケと麩と一緒に、お椀のすまし汁で出てきた。 初めて見る変わった料理に先輩も後輩も俺も声が出なかった。 「お前達食っていいぞ。」店長が言った。 「じゃあ俺はいいから、まずお前食えよ。」と先輩が言ったので、 俺は 「どうぞ、お先に食べてください。」と皆んなに促したが 「やっぱり食いたがってた人から食えよ。」と言われ、毎度の俺が厄介を受け持つ形だ。 俺は先に食べようとしたときに、 店長が「お前も先に食うか。」と何故か後輩に聞いた。 後輩は案の定「僕は後でいいです。」と言って無駄なやりとりになった。 「では、お先に頂きます。」と声を高めに言って、皆からの視線を浴びながら俺はまずモグラの朴葉味噌に箸をつけた。 それを口にした後も俺はしばらく黙ったので、当然ながら誰からともなく 「どう?」と食べた感想を聞かれた。 「まあ、旨いですよ。」 「ほんとかよ。」 「まあ、ほんと旨いですよ。ほんとに。」 「お前正直に言え。旨いって言う割に旨くなさそうだぞ。」 「いや、旨いですよ。」 「嘘っぽいんだよ。さっきのサービスエリアのソフトクリームはもっと、めっちゃ旨そうに食ってたったじゃねえか。」 「いや、こっちも旨いですよ。食べて見てください。」 「ほんとかぁ。」 先輩もモグラの朴葉味噌に箸を付けた。 「どうですか。」 俺は先輩に聞いた。 「あぁあ。俺は大丈夫だ。うん、俺は好き。店長もどうぞ。」 「そうか、旨いか。」 店長は先輩が食べたのを確認してから、モグラの朴葉味噌に箸を付けた。店長はそれを一口食って顔をしかめた。 「お前達、ほんとにこれ旨いか。旨いか。」と店長は連呼した。 「旨いです。」と俺が言ったら 店長は「本当か、ほんとに旨いか。」とまた俺に問い直したから、 「はい。」と俺は返事をした。 店長は、「お前もそう思うか。」 と今度は後輩にに聞いた。 そしたら、店長とほぼ同時にモグラの朴葉味噌を食べていた後輩は 「僕は駄目です。苦手です。」と答えた。 「そうだろ、お前もそう思うか。俺も駄目だ。」 店長は後輩に追従した。 店長は誰が不味いと言うのを待ってから自分も「そうだろ。俺もだ。」と言うのだ。 もし、後輩が「この味は苦手だ」と言わなかったら、俺は「モグラは不味いですね」と言うまで永遠と「ほんとに旨いか?」と問い詰められただろう。 俺が「モグラが旨い」と正直を通せたのは、ある意味後輩が「不味い」と言ってくれたお陰だ。 「お前も、これが旨いか。」と今度は店長が先輩に聞いた。 「俺は好きですよ。でもちょっと癖がありますね。もし店長だめでしたら俺がもらいますよ。」 「そうか、ありがとう。俺はもう後は残すから余裕があれば食ってくれ。」 「じゃあ、後で頂きます。」 次に店長は 「お前はどうする。お前は食えるか。」 と後輩に聞いた。 後輩は、「僕も残します。」と言った。 そう後輩が言ったから俺は、 「その残した分もらおうか。」 と先輩が店長に言ったように 俺は後輩に気を使って言ってやったが、 「いや、だったらもう少し頑張って食べます。」 と言って後輩にはまたモグラの朴葉味噌を食べだした。 店長は後輩に「無理するなよ、無理だったら残せよ。」と言った。 先輩も「無理するなよ。」と後輩に気を使った。 店長と先輩に無理するなと言われた後輩は、 「分かりました。」 と言って箸を置いた。 何故か後輩は自分が食べ残した物を俺に食べられるのを嫌がっているようだ、 俺は、「さっき、ソフトクリームも食べたしセイロ蒸しもまだ来るから、もう残した分も貰わないから残せばいいよ。」と言ってやった。 そしたら後輩は 「もう少し頑張ります。」 と言ってまたモグラを食べたした。 後輩は俺には天邪鬼(あまのじゃく)だ。 俺が言う事と逆をする。 俺は悲しくてムカついた。 だから今度は後輩に「だったら残さず全部食べろ。」と言ってやろうと思った瞬間、 「お前は黙ってろ。」 店長が、俺に言った。 鋭い目つきだった。 そこからそれまで美味かったモグラの朴葉味噌が不味くなった。 〜続く〜
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