店長と俺

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今日は、ドライブ。バイトの仲間と。 俺が車を出した。運転もしている。 メンバーは、俺、そして俺の面倒をよく見てくれるいい先輩、それと俺の後輩、そしてもう一人・・・ そう、店長。 俺たちのバイトの店長だ。  この、四人でドライブに行った時の話です。  俺のバイトの今の仕事は、居酒屋のキュウリ切り。本当に気の抜くことのできない大変な仕事だ。 そんな、毎日悪戦苦闘をする俺を影に表に支えてくれているのが、今俺が運転をする車の助手席に座ってくれている先輩だ。 俺は、この先輩に仕事のこと以外の人生のあらゆることを教えてもらった。 女の口説き方。彼女を幸せにする方法。おいしい店の情報。男らしさについて。酒の飲み方。  孔子の教え。唯物論。年賀状を年々減らしていく方法。葉隠の精神。ホームレスの働かせ方。深爪しない足の爪の切り方。アシュラマンとロビンマスクは同じ声優が演じていた事。クッパはファイヤーボール四発で倒せる事。 少年ジェッターの掛け声。双葉山の連勝が止まった日の事。等など・・・ 数え上げればキリがない。 しかし俺はこの先輩から仕事の事は一切教えてもらったことはない。 例えばこんなことがあった。 俺が洗った皿のしまう場所がわからなくて、先輩にどこにしまうのか聞いた時があった。 その時先輩は明らかにドギマギしていた。 俺はそれを察して、違う人に聞いて皿を所定の場所にしまうことができた。 また別の日には、使う洗剤の分量について訪ねた時があった。その時先輩は、明らかにいつもより苦々しい顔をしていた。またその時も、俺はそれを察して別の人に聞いて事なきを得た。 そんな、先輩のことを店長は常々こう言っている。 「仕事の事はあいつを見習って教えてもらえ。あいつも俺と二人きりになると人に教えるの上手いぞ。」 俺は最初、その店長のその言っている事の意味が分からず 「店長と先輩が二人きの時は、先輩が人に教えるのが上手いってどう言う意味ですか。」と聞き返した。 店長は、「だから、俺とあいつに面と向かって話を聞くときは人に教えるのが上手いぞ。」 と答えた。 その答えを聞いてもその言葉の意味が全く分からずに俺は諦めた。いや恐れ入ったのかもしれない。 店長の言っている意味がわからないということはそれだけ、店長の話のレベルが高すぎるからだ。 普通、初めて野球のグローブをはめた人は、プロ選手の150キロの速球はキャッチすること等できない。 しかし、店長はグローブをはめたばかりの俺に、絶対にキャッチできると信頼して150キロの球を投げてきてくれたのだ。 そんな心の大きな店長だ。 だからこそ、先輩も店長のことを実の父親のように尊敬し付いていっている。 そんな店長と先輩の関係が俺は羨ましい。
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