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店長と車の中
今日は、ドライブ。バイトの仲間と。
俺が車を出した。運転もしている。
メンバーは、俺、そして俺の面倒をよく見てくれるいい先輩、それと俺の後輩、そしてもう一人・・・
そう、店長。 俺たちのバイトの店長だ。
この、四人でドライブに行った時の話です。
俺たちこの四人は、同じ居酒屋で働いている仕事仲間だ。
今、俺たちこの四人は俺が出した車に乗り込んで、高速道路を東に向かっている。
晴天。空にある雲を探すのが難しいくらいだ。俺も運転をしていて気持ちいい。
当然、車を運転する俺が運転席、先輩が助手席、その後ろに後輩、俺の後ろに店長。
車の中は楽しい話題で盛り上がっている。
店長が一言何か言うと、先輩が笑う。
俺は、はっきり言って何が面白いか分からない。
だけど、店長が言ったことだからきっと面白いんだろうと思ってとりあえず笑う。
その点、後輩はクールだ。
自分が、面白いと思ったこと以外一切笑顔を見せない。
例えばこんな具合だ。
「見てください店長。あの木の陰あれタヌキじゃないですか?」
と俺が言う。
店長は答える
「本当だ、あれはタヌキだな。その横にいるのがテヌキか?」
「ははは。じゃあその横がチヌキ。」
と先輩がフォローする。
「あはは。じゃあ僕は、テでヌク方で。」
と俺がつけ加える。
「下品だ!」
と店長と先輩からお叱りを受ける。
そのとき後輩はと言うと、そんな様子を腕を組みながら横目で冷ややかに見ているという風だ。
そんな、やり取りを一切笑わない。
そんな何事にも迎合しない彼を俺は、後輩ながらある意味尊敬している。
(天気がよく、絶好の行楽日和だ。
みんな気分が上がってくるのは仕方がない。
そんなときこそ、俺が冷静にならなくてはいけない。
みんなが浮かれているからこそ、みんなを抑えるほうに周らなくては。
こんなときこそ、冷静な後輩を見習って、浮き上がる気持ちを抑えよう。)
と俺は運転しながら考えている。
車はさらに東に向かっている。
店長が口を開いた。
「バイトの調子はどうだ?厳しいか?」
先輩が答えた。
「毎日あれだけビールを注文する人が多いとビール担当の私は少し大変です。しかし、その分やり甲斐はあり充実しています。」
「そうか。」
と店長は言ってそのまま続けた。
「お前の方はどうだ?」
と俺に質問をした。
「キュウリも厳しいです。」
と俺は答えた。
店長は、
「そうか、そんなに厳しいか。そしたらキュウリ婦人に応援を頼むか?」
と、言った。
キュウリ婦人・・・
俺は全く面白くなかった。
しかし、店長が冗談でそれを言ったのには気がついている。
しかし、俺がシラケることでいつも、世話になっている店長を冗談のセンスがないと気づかせてしまうことは失礼にあたるのではないか。
そう思っていつもなら、ここで、あまりのツマラなさのこの空気の面白さをを笑う事で、店長の冗談の面白さで笑ったように見せかる事によって、嘘の本当の笑いをするところだ。
しかし、俺はそこでいつもクールな後輩を見習うと思った。
ここで、冷静になることで大人にならなければと思った。
冷静になってみんなを見守る立場にならなければと思い、その時俺は、
ただ、
「はい。」
と、だけ言った。真顔で答えた。
俺の車の中に2秒くらい沈黙が流れた。
2秒の沈黙を切り裂いて、
「キュウリ婦人に応援を頼むか?」
店長はまた同じことを言った。
俺はまた、
「は、はい。」
とだけ真顔で答えた。
また、2秒・・・
店長、「ナス婦人にするか?」
一秒・・
「はい。」
とまた俺が言おうとした瞬間、
「あはは、キュウリ婦人とナス婦人の応援は僕の方へ呼んでください。」
と明るい後輩の声がした。
「そうか、ナス婦人にはお前の仕事を手伝ってもらおう。」
と店長は後輩に言った。
「ははは、キュウリがいなくなってますよ。」
と先輩が言って場をもたせた。
俺は冷静になれた自分に満足して、笑みを讃えながらその会話を聞いていた。
その時、先輩が運転をしている俺に耳打ちをした。
「店長がボケただろ、後輩を見習え。馬鹿かお前」
と先輩は突き放した様に俺に言った。
先輩にたしなめられた俺は挫折した。本当に心からの真顔になった。
「じゃあ店長、キュウリ婦人にはビール婦人になってもらって私の方に呼んでください。」
と先輩は店長に笑いながら言った。
当然今、俺が先輩から何を耳打ちされたか知らないバックミラーから見えた
「分かった。」
と言った店長は満足そうに笑っていた。
後輩も笑っていた。
「おい、お前も笑えよ」
店長は俺に言った。
「あはははhhh」
挫折していた俺はバカ笑いを真顔でした。
・・2秒・・・ 「ははhh・・」
「わざとらしいぞ!」
と大きな声で、俺に言ったバックミラーから見えた店長の顔は真顔だった。
いや、真顔というより怒気が含まれているようだった。
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