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1 青島興行
麦わら帽子のような色の髪の毛の子供が 拳銃を向けている。
ただの映画のワンシーンを、チャンネルを切り替えていたら見かけただけなのに和馬は食い入るように見ていた。
体温も呼吸も吸いとられるように、真っ青になってその画面を見つめる。
子供は叫ぶ。
〔僕のことを愛してる?〕
拳銃を向けられているのは、彼の母親らしい。すでに腕を撃たれていて、涙と泥でぐちゃぐちゃになった顔で壁に寄りかかり頷く。
必死に頷くけれど、それはもう 彼に脅されて言わされているだけだ。
〔だったら…僕に愛してるって言って。どこにもやらない…ずっとそばにいてって言って!〕
子供が絶叫している。
母親は嗚咽を繰り返しながら
〔愛してるわ〕
と叫ぶ。
子供は涙を流して頷いたあと、画面は青空に切り替わり銃声が二発続いた。
最後を視聴者に考えさせるように、幕は下りた。
和馬はとうとう呆気にとられて、リモコンを足元へ落とした。
「すげーな、おい」
一言呟いて、慌てたように画面表示を押して映画の題名を調べようとしたが すでにテレビショッピングに切り替わってしまった。
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