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 良くん……良治(りょうじ)のことを忘れたことはこの五年間で一度もなかった。今でも昨日のことのように鮮明に思い出すのだ。  四人で屋敷の中を走り回ったこと、かくれんぼしたこと、着物を着せてもらったこと、勝と俊太の二人に内緒で、良治と夜中にこっそり屋敷を抜け出したこともあった。  三人がそれぞれ覚えているのだから、絶対に夢ではないはずなのに、もしかしたら三人が同時に見た夢なのではないかと思うほどに記憶もあやふやになっていて、どれが本当にあったことで、どこからが自分の願望なのか狭間もわからないくらい、色褪せた思い出のようになってしまった。確かに、昨日のことのように覚えているのに。 「いっちゃんも覚えてるよな?良くんのこと」 「……うん」 「どこ行ったんだろう」 「普通に考えたら引っ越しじゃない?この屋敷に住むこと自体おかしいし、管理人さんかなんかの子どもだったのかもしれないけど」  勝は妙にリアリストだった。 「あんなに一緒に遊んでたんだから一言くらいあってもよかったのにね」 「どうしようもないこともあるよ」 「まーくんは大人みたいなこと言うよなあ」 「高校生ってわりと大人じゃない?」 「まだ、子ーどーも!」  声を張り上げた後、俊太は自分の大声に驚いたみたいに一瞬間を開けてから、けらけらと笑い始めた。  大人になればなるほど、一之進は自分が良治から離れていくような心地がした。それならもう少し子どものままでいたいと密かに願ったが、季節が移ろいゆくことを否定するように無駄なことのようにも思えた。    
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