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   *  生温い風が葱の薫りを乗せて漂う季節になった。小学校で最年長の学年になった一之進、勝、俊太は相変わらず、放課後や休みの日になるとよく三人でつるんで遊びに出かけた。  たまたま新御座所の前を通ると一之進は異様な空気を感じる。いつもと違う違和感を感じたのだ。確実に普段の新御座所とは違うのに、辺りを見回しても何が違うのかさっぱりわからず、間違い探しの難問を解いているみたいに複雑な気分になった。 「あ!立ち入り禁止じゃなくなってる!!」  そう叫んだのは俊太だった。 「確かに。いつもロープとか立て看板とか置いてあったよね?何で何もないんだろう」  冷静な勝は訝しんで小首をかしげる。  ロープとか立て看板とかそんなことではなくて、本当に芯の部分で何かが違うと一之進は感じるが、上手く説明することができず歯がゆい思いで黙っていた。もっとこう根本的なこと、箸は二本で靴は二足、そういうことに近い気がした。 「立ち入り禁止の表示がないってことは入っていいってことだよね?」  にまにましながら一之進と勝にとりあえず尋ねてはみたものの、俊太の答えはもう決まっているようだった。 「立ち入り禁止ではなくなったかもしれないけど、誰か人の所有物だろ?」  勝は冷静に答える。 「人の気配しないよ?こっそり入ればばれないって」  俊太はすでに靴を脱いで、板の間に上がっていた。 「おい、やめとけよ」  勝は俊太を制止しようとしたが、続いて一之進を靴を脱ぎ始める。
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