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1.
何もない町だが、懐かしさは感じても淋しさは感じない。この町を出たことがあるわけでもないのに、胸の底から郷愁がわきあがる。
いつもそこには、伸びやかにしなだれる稲だとか、どこまでも大きく成長し続けるお化け茄子だとか、竹のように高くなるアスパラガスだとか、顔料よりも赤く染まる苺だとかが溢れかえっていたせいだと思う。
旧塩原御用邸新御座所の縁側に座り、赤々と色づく木々を目の前にしても、高校生の男子三人の目には全く映っていないようだった。
三人とも高校が別々になり、こうして会うのもいつ以来なのか忘れてしまうほど遠い出来事だった。
「前は入れなかったのにね」
ぽそりと俊太が呟く。
「最近一般開放されたらしいよ」
物知りな勝が、俊太の質問を待っていたみたいに即答する。
「でもさ、小学生のとき開いてよね?」
「……開いてたね。少しの間だったけど」
「良くんのこと覚えてる?」
「もちろん覚えてるよ」
一之進は二人の会話を他人事のようにぼんやりと聞いていた。
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