第一章「私達の初恋」

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ーー次の日から相沢はなぜか私をからかわなくなった。字が汚いとバカにすることもしないし、消しゴムを勝手に取ったりもしない。 バカ騒ぎはいつも通り、発言力もいつも通り、ただ、私に話しかけなくなっただけ。他に何かが変わった様子は特にない。 派手な女子達が私に何か言ってくることもないし、男子達が私の「相沢なんか大っ嫌い」発言をネタにしてからかってくることもなかった。 相沢が私をからかうことのない、平穏な学校生活。これこそ私が望んでいた、中学校生活最後の一年間。 …それなのに。嬉しいはずなのに。 休憩時間も、授業中も、右隣が気になって仕方ない。あからさまに見たりはできないから、黒板を見るフリをしながら視線を少しだけ相沢に向けてみたり。 だけど当然、目が合うことなんかなかった。 「花梨、お昼食べよー」 「あ、うん」 お昼休みになって、いつもの様にお弁当を持ってミオちゃんの席に向かう。立ち上がった瞬間少しフラついて、背中が誰かとぶつかった。 「あっ、ごめん」 ぶつかった人物に謝りながら振り向くと、それは相沢で。一瞬驚いた顔をした後、複雑そうな顔をして私を見下ろした。 「あ…ご、ごめ…」 もう一度謝ろうとしたけど、すぐにフイッと視線をそらされてそれ以上言葉を続けられなくて。足早にミオちゃんの席へと足を進めた。 「どうしたの?食欲ない?」 「うーん、朝ご飯食べ過ぎたのかも」 私は心配してくれるミオちゃんに笑顔を向けると、まだ半分も中身の減っていないお弁当箱をそっと閉じた。 …何で、私がこんな気持ちにならないといけないんだろう。相沢がからかってこない、これ以上嬉しいことなんてない筈なのに。 さっきのアイツの顔が、頭から離れなかった。 結局その日は、モヤモヤしたまま一日が過ぎて。ミオちゃんと途中まで一緒に帰って、バイバイしてからは一人。六月になったばかりの今は、暑くも寒くもなくて丁度良い。けど、夕方の薄暗くなりかけた空はやけにもの寂しく思えた。 誰も居ない田舎道を、トボトボと歩く。心のモヤモヤに比例して、肩にかけた通学カバンがやけに重たく感じた。 いつものように角を曲がると、いつもと変わらない景色の中にたった一つだけ違うものが目に映った。 ーーそこに、相沢が居た。
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