第一章「私達の初恋」

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その姿が目に映った瞬間、全身の細胞がザワザワし始める。毛穴がブワッと開いて、汗が噴き出してくるような変な感覚。 足が勝手に止まって、それ以上進めない。心臓が、口から飛んでどこかへいきそうだった。 「あ…」 下を向いていた相沢が私に気付いて、小さく声を上げる。こっちに近付いてこようとするのが分かって、私は思わず一歩後ろへ下がった。 「…逃げんなって。何もしないから」 怯えてる私に、相沢はそう声をかける。いつものニヤニヤした、バカにするような空気感はない。気まずそうな顔をして、声もいつもよりもうんと小さい。 「…」 次の言葉が見つからない。相沢をチラッと見れば、何か言いたげな表情で私を見てる。いつも自信満々に、自分の言いたいことを言いたい時に言うヤツだとは思えない程静かだった。 「…あの、さ」 「う、うん」 ポツポツと話し始めた相沢に、思わず構えてしまう私。雰囲気からしてこの間のことを責めたい感じじゃないみたいだけど、彼がなんでここに居るのかまだイマイチ理解できない。 「この前言ってたのって…あれ本音?」 「…え?」 「だ、だから…さ。言ったじゃん。大嫌いって」 言い辛そうに、照れたように口にする相沢は、私の知ってる相沢じゃなかった。 「あ…」 まさか、あの発言をこんな風に蒸し返されるなんて思わなくて、思わず間抜けな声が出る。 「…まぁ、普通に考えたらそうか」 そう呟いて、小さく鼻で笑う。私に対してっていうより、自分に対して笑ってるみたいに。 「あ、相沢…」 もしかして、私のあの言葉をずっと気にしてたんだろうか。気にしてたから、急にからかわなくなったってことなの? でも、相沢が私なんかの言葉をいちいち気にしたりする?てっきり、あんなこと言った私に呆れてからかうのさえ嫌になったんだとばかり思ってたのに。 「あ、あの…私…」 なんて言って良いのか、分からない。 けど、何か言わなくちゃって、焦る。 「べ、別に…ホントに思って言った訳じゃ、なくて…」 本当は、あの時はそう思って言ったけど。 「…うん」 相沢が、変な顔でこっちを見る。ニヤけた顔じゃない、怒ってる訳でもない、真剣で少し揺れ動く、真っ直ぐな瞳。 相沢からこんな風に見つめられたことなんてなくて、心臓のドキドキが煩くて、頭がパニックでどうしたらいいのか分からない。
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