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「…相田」
距離にすれば、歩幅一歩分。それくらいの距離に、相沢が居る。近くで見ると、やっぱり彼の顔は真っ赤だった。
「俺…俺ホントは最初からお前のこと…っ」
いつも余裕たっぷりの相沢の顔が、余裕なさ気にクシャッてなってて。それもまた、私をどうしようもない気持ちにさせる。
相沢の態度や私を見る目、緊張した雰囲気とドキドキと高鳴る胸の鼓動。
こういうことに疎い私にも、相沢が何を言いたいのかが漸く分かってきて。
「…」
だけどそれを、完全にそうだと信じきれない。
だって、あの相沢が。あの相沢が、私を…?そんなの、夢にも思ったことない。ただのからかいの対象で、女の子として見られてはいないとばかり思ってたから。
私の心も、色んな気持ちが混ざってパニック状態だった。
今まで意地悪ばっかりで、優しくされたことなんて一度もない。私だって、相沢のことが好きなんて考えたことなかった。
けど…けど…
「俺…俺、お前が…っ」
ど、どうしよう…!
ギュッと目を瞑った私。その時、相沢の言葉を遮るように後ろから大きな明るい声が聞こえてきた。
「なーにやってんの律!また相田からかって遊んでんの?」
急なことにビックリして、振り返る。そこには相沢が普段から一緒に居る男子達が三人、ニヤニヤしながら立っていた。
「用あるとか言って一人でさっさと帰ってったけど、まさか相田と約束してたん?」
「律が教室以外で相田に構うわけねーよ。なぁ?律」
「えー、じゃあ相田が律ストーカーしたってこと?」
男子達はニヤニヤ顔のまま、こっちに近付いてきて好き放題言い始める。相沢の周りを取り囲んで、三人のうちの一人が相沢の肩に手を回した。
「…いや、お前らなんでここにいんだよ」
相沢も凄く驚いてるみたいで、私もどうしていいか分からない。
「イッチーの家に行こうとしてたんだよ。用終わったんなら、律も来いよ」
イッチー、確かこの三人の内の誰かがそんなあだ名だったような。
「い、いや俺は…」
「律、もしかしてマジで相田と待ち合わせしてた?」
「もうお前ら行けって!」
声を荒げた相沢に、三人が顔を見合わせながらざわつき始める。
「…いやいや、嘘だろ?マジで相田?」
「律と相田?似合わな過ぎでしょ」
「あ、分かった!どうせからかって遊んでやろうっていつものアレだろ?相田のキョドッた反応ウケるって言ってたじゃん」
その言葉に、高鳴ってた私の胸になにかが突き刺さった気がした。
「なぁ、律?そうだろ?」
「…」
「律?」
「…そうなの?」
いたたまれなくなって、か細い声で相沢に問いかけた。
真剣な目も、赤いように見えた顔も、いつもと違う態度も全部、ただ私をからかってただけってこと…?
「…」
困ったように眉根を寄せたまま何も言わない相沢の、その態度が答えだと思った。
彼が何か言う前に、私は相沢達に背を向けて勢い良く走り出した。
「相田!待てって…相田っ!」
後ろから相沢の声が聞こえたけど、私は足を止めなかった。兎に角一メートルでも、一センチでも彼らから離れたい。
その一心で、私は走った。
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