第一章「私達の初恋」

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「花梨、大丈夫?」 お昼休み、何も言わなくてもミオちゃんにはやっぱりバレてたみたいで。 「泣いたんでしょう?」 心配そうな顔で、ミオちゃんはそっと私の目元に手を伸ばした。 「聞いてほしくないみたいだから朝から聞かなかったけど、花梨元気ないから。どうしても気になっちゃって」 「…ありがと、ミオちゃん。実は昨日の夜お母さんと喧嘩しちゃってさ。お母さんと喧嘩して泣くなんて、恥ずかしくて」 笑いながら誤魔化すと、ミオちゃんはそれを素直に信じてくれる。 「私もあるよ、お母さんと喧嘩して泣くこと。言い合いになっちゃうと、引くに引けないよね」 気を遣って小声で励ましてくれるミオちゃんに、私は心の中で“ごめんね”と謝った。 大好きなミオちゃんに嘘は吐きたくないけど、昨日の出来事は誰にも言いたくない。 それからは、ミオちゃんを心配させないように私はなるべく笑顔を作って過ごした。 ーー次の日、一時間目は席替え。 この席になって、相沢の隣になって二ヶ月。相沢とは、あれきり何もない。私もアイツも、お互いの友達と普通の日々を過ごすだけだった。 あの角を曲がる度ドキドキして、相沢の姿がないと分かって複雑な気持ちになって、そんな自分をまた惨めに思って。顔に出さないように気を付けても、曇る心の中はどうしようもなかった。 だけどそれも、今日で終わる。せめて席が離れれば、きっとあの日のこともすぐに忘れられるはずだもん。隣にいると、どうしても、意識してしまうから。 クジを引き終わってその番号と黒板に書かれた席を照らし合わせると、私の席は今とは全然別の場所だった。窓際の、一番後ろ。 先生の掛け声で、皆が一斉に机を持って移動を始めた。 私も椅子をひっくり返して机に置き、持ち上げようと机の両端に手を掛ける。そこでふと、机の端に小さく何かが書いてあることに気付いた。 顔を近付けて見ると、そこには鉛筆で小さく「好き」と書かれていて。それを見て、私の心臓は一気に煩くなる。 誰が、いつ、書いたんだろう。思い返しても、分からない。けど、これが書かれている場所は、相沢が座っている方。文字からしてなんとなく、女子のものではないように思える。 「…」 相沢かも…と一瞬考えたけど、私は小さく頭を振って机を持ち上げた。次の席の位置まで移動させてすぐ、その文字を消しゴムで消す。 相沢でも、相沢じゃなくても、もう良いんだ。私は自分が傷付くのを覚悟で確かめにいけるほど強くないし、仮に書いたのが相沢だったとしても、彼もまたこんな風にしか行動に起こせない。 結局私達は、今の自分の立場が一番大事。今思い返してみれば、相沢がもし本気で私に告白しようとしてたとして、それをたまたま友達に見つかっただけだとしたら、あの場で「からかってなんかない、本気だ」って果たして言えるのだろうか。 私なら絶対に、無理。そして相沢も、無理だった。学校生活での自分を壊せるほど強くもなければ、大人でもないんだ。 私達は…いや私の初恋は、始まる前に終わった。
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