第二章「素直になれない」

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ーー 体育祭が終わって、部活も引退して、夏休みも終わって。それからの私達は受験勉強に必死で、他のことを考える余裕なんてほとんどなかった。 何回か席替えもしたけど、相沢の隣になったのは最初の一回きり。少しだけ近くになったこともあるけど、私も相沢もお互いに声をかけたりしなかった。 意識してないって言えば嘘になるけど、もう終わったんだって気持ちの方が強くて。後は本当に勉強漬けの毎日だったから、相沢を気にする余裕も自然と減っていった。 「卒業おめでとうございます!」 卒業式の日、後輩達が花道を作ってくれてそこをミオちゃんと歩きながら、今日これからどうするかをはしゃぎながら話し合う。 「受験からも解放されたし、後は発表待つだけだね」 校門を出て、いつもの帰り道。明日からはもう、ここを通ることもなくなる。 「それが怖いよ…私自己採点ギリギリだったし、ちょっと自信ないなぁ」 ウチの市では高校の一般入試、卒業式、合格発表の順番。勉強とプレッシャーの毎日からは解放されたけど、結果を待つ数日間もそれはそれでドキドキする。 「お昼買ってカラオケ行こ、カラオケ!」 「そうだね、行こう行こう!」 卒業式後の謎の高揚感で、私もミオちゃんもいつもよりテンション高め。 卒業式はお昼前に終わって、家族も先に帰っちゃったから今日は久しぶりにミオちゃんとめいっぱい遊ぼう。 「夜は多分花梨の家も私の家も家族でお祝いだろうから、夕方まで」 「うん!最近塾ばっかりだったから、楽しみだなぁ」 「私もー!一回帰って着替えきゃだし、早く行こ花梨!」 「もー引っ張らないでよミオちゃんっ」 私達は笑い合いながら、いつもバイバイする道まで一緒に帰った。 「着替えたらすぐ集合ね!」 「うん、また後で!」 ミオちゃんと別れて、足早に家へと向かう。 まだあんまり実感ないけど私、本当に卒業したんだなぁ。うっかりしてたら、月曜からまた学校に通ってしまいそうだ。 一人そんなことを考えながらいつもの角を曲がるとーー 「…よ」 相沢が、壁にもたれながらそこに居て。 すっかり頭から離れてたあの時の気持ちが、一瞬で私の心の中に戻ってくる。 思い出さなくなるまでは、あんなに時間がかかったのに。
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