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足が固まったみたいに動かなくて、だけど相沢が一歩ずつ近付いてくるから、私もその分無意識に後退りした。
「…逃げんなって」
相沢は、あの時みたいな雰囲気だった。
最近はからかわれることもなかったけど、教室では相変わらず王様で自己中で煩い。女子達も周りに何人もいて、笑いながら相沢に腕を絡ませたりしてるところも、何度か見た。
その度に胸の奥がチクチクするのが嫌で、いつの間にか相沢のいる方向を見るのをやめた。
「…何」
もう、騙されない。あれがもし本気だったんだとしても、またあんな惨めな気分を味わうのは嫌。
強気な声を出して相沢をキッと睨むと、困ったように小さく笑う。
「そんな警戒すんなって。別に、いじめにきた訳じゃねぇから」
「…じゃあ、何しにきたの」
「さぁ?俺もよく分かんね」
…何だ、それ。そんなこと言われる私の方が、分かんないよ。
相沢は視線を下に向けたまま、靴の先で地面を軽くなぞる。ジャリジャリ、音がした。
「…ただ、あのまま終わるのどうしても嫌で。今更だけど、あの時はごめん」
“あの時”そのフレーズを聞いただけで、辛い気持ちがまたぶり返す。
「…何のごめん?」
やっぱり、ただ私をからかっただけだってこと…?
「…あの時、ちゃんと言えなかった。あいつらに見られると思わなかったし、否定するのも恥ずかしくて」
相沢の声のトーンが下がる。
「俺、マジでだっせぇよな。リーダー気取ってたって結局は、仲間外れにされたくねぇし恥ずかしさの方が勝つ。相田を傷付けたって分かってても、謝りにいくのが怖かった」
「…」
「どうせ、信じてもらえる訳ねぇから。好きだって言っても」
そのセリフの後、相沢は視線を上げて私を見る。私の胸が、ドクンと音を立てた。
「…ずっと、好きだった。一年の頃から」
「え…」
相沢とクラスが一緒になったのは、三年になってからが初めてなのに。
「お前、家庭科部だったろ?俺が一年の頃、試合の直前にユニフォーム破いて焦ってた時、それ見てたお前が縫ってくれたじゃん。覚えてる?」
「…覚えてる」
お尻のところが破れたユニフォームを手に、家庭科室の前にある水汲み場でブスッとしてた相沢に、私が声をかけたんだ。
「俺背高いじゃん?誰かの借りても丈短くてダセェし、はじめての試合だったから絶対ヘマしたくなかった。尻破れたなんて恥ずかしくて言えねぇし、あの時はマジで焦ってた」
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