第二章「素直になれない」

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あったなぁ、そんなこと。一年の夏休み前、初めて相沢と話した。声かけるの凄く迷ったけど、ずっと動かないから困ってるんだと思って、勇気を出して話しかけた。 ユニフォームを直した時もずっと不貞腐れて、大したお礼も言われなかったから相沢にとっては迷惑だったんだろうと思って、やらなきゃよかったって泣きそうになったっけ。 もう思い出したくなかったから考えないようにしてたし、相沢はとっくに忘れてるとばかり思ってたのに… 「気になってた、あの時からずっと。だけどお前俺が近付くと妙にビクビクしてるし、友達って感じでもないし、それ見てるとどうしても嫌な言い方でしか話しかけられなかった」 「…」 「ごめん。今まで、酷いこと言って」 あの相沢が、謝ってる。少し照れたように、困ったように、眉間に皺を寄せて。 どうしていいか分からなくて、ドキドキして、何も言葉が出てこない。 もしかしたら、前みたいなことになるかもしれないのに。そんなの絶対嫌なのに。 「…いいよ、謝らなくて」 「…」 「あんな些細なこと、覚えてたんだね」 「当たり前だろ」 「ありがとうも言わなかったくせに」 「…恥ずかしかったんだよ、尻破れてたんだから」 「ふふっ」 「…笑うなよ」 いつもカッコつけてる相沢が、今日は何だかカッコ悪い。でも私には、いつもより何倍も良く見えた。 「…ありがと。謝ってくれて」 「…おう」 「…」 「…あの、さ」 「…相沢」 「何?」 「高校行っても、元気でね?」 ニコッと笑うと、相沢は一瞬悲しそうな顔をする。ズキンと痛んだ胸に、私は気付かないふりをした。
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