第二章「素直になれない」

8/8
前へ
/128ページ
次へ
「葵にぃも、いるんだね好きな人」 「も、ってことはお前もいるんだな」 ニヤニヤするから、肘で突っついてやった。 「違うもん、手前で終わったからまだ好きまでいってないもん」 「なんだそれ。お前ホント、俺以外の男には素直じゃないよなぁ」 なぜか葵にぃは、嬉しそう。 「葵にぃは、告白とかしないの?」 「しねぇよ」 「なんで?」 「したら相手に迷惑かけるから」 「よく分かんない」 難しい顔になる私に、葵にぃは私の頭をくしゃくしゃにする。 「分かんなくていーんだよ、お子ちゃまには」 「もうっ、お子ちゃまじゃないもん。高校生なんだからねっ」 「無事なれるといいけどな?」 「あ、ちょっとぉ!」 膨れながらポカポカ叩くと、葵にぃは楽しそうに笑った。 初めて聞いた葵にぃの恋愛の話は、私にはなんだかよく分からない。でも葵にぃのおかげで、私の気持ちは少し軽くなった。 ーー数日後、私は無事志望校に合格。葵にぃに報告したら物凄く喜んでくれて。 もちろんお父さんとお母さんもいっぱい褒めてくれて、その日も手巻き寿司。大好きだから、毎日でもいい位だ。 海苔に乗せた酢飯の上にサーモンときゅうりを乗せて巻いて、口いっぱいに頬張る。 合格の喜びと、これから始まる新しい生活への不安。たくさんの感情をいっぺんに、喉の奥に詰め込んだ。 これから、どんな世界が私を待ってるんだろう。いくら考えても想像もつかない。だけど一つだけ、ハッキリ分かってることがある。 私の新しい世界に、相沢はいない。
/128ページ

最初のコメントを投稿しよう!

420人が本棚に入れています
本棚に追加