第一章「私達の初恋」

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ーー 「お前、また牧丘と帰ってたらしいじゃん」 週明け、月曜のお昼休憩。お弁当箱を片付けてミオちゃんの席に行こうとしてた私に、相沢がそう声を掛ける。相沢の机の周りには、数人の男女。もちろん、皆カースト上位の自信満々な人達だ。 「えー何々、相田さんって牧丘と付き合ってんの?」 相沢の周りに居る人達が、ニヤニヤし始める。 「ち、違うよ付き合ってないっ」 ムキになって否定したって、こういう人達には逆効果。けど、無視する勇気は私にはない。特に発言権の強い女子達を一度的に回してしまうと厄介だって、丸二年の中学校生活で身に染みてる。 「分かった、じゃあ片思い?」 一人の女子が、楽しそうに聞いてくる。 「そ、それも違う」 牧丘(マキオカ)は、ミオちゃんと同じように小さい頃から家が近かったから、たまに一緒に遊んだりしてた。だけど中学になってからはあんまり関わることもなくて、友達と呼べるかさえ微妙な関係だ。 もちろん待ち合わせしてるわけでもない、正真正銘の偶然。喋る内容もあの先生苦手とか、あのバラエティ番組が好きだとか、そんな他愛ないこと。そもそも牧丘はお喋りなタイプじゃない。 相沢と違って落ち着いてて、サッカー部のキャプテンで、男子から凄く慕われてて先生からも話しかけられてるのをよく見かける。 小さい頃から知ってるし、私が気負わずに話せる唯一の男子といっても間違いじゃないから、当然嫌いじゃない。だけどお互い、恋愛としては全然意識してない。 ちょっと同じ道を歩いたからって、すぐ付き合ってるだの好きだの本当バカみたいだ。 …なんて、言えるはずもないけど。 「牧丘、無愛想だけどイケメンだよね」 「確かにー。体育の時とか何気にヤバイよね」 女子達が色めき立つと、相沢が面白くなさそうな顔をした。 「でもまぁ、考えてみればそんな奴が相田を好きになる訳ないかぁ」 そう言いながら立ち上がると、私の机に勢い良く両手をついた。バンッという音に、私の肩がビクッと反応する。 「地味だし、ブスだし、字も汚いし、トロいし、良いとこないもんな」 また、いつもの意地悪な表情。私の大っ嫌いな、この顔。俯くしかできない、自分も心底嫌だ。
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