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「おい律、相田さん可哀想じゃんか」
「そーそー、泣いちゃうよ」
「ホント律って酷ーい」
「本人の前で、言ってやんなって」
相沢の取り巻き達が、口々に私を庇う台詞を口にする。けど皆、顔は笑ってて。
笑って、バカにして、楽しんでる。本心では誰も、私のことなんて庇ってない。寧ろ、もっとやれって思ってる筈だ。
「花梨、外行こ?」
いつの間かミオちゃんが隣に居て、優しく私の手を引いてくれる。下を向いてた私はホッとして立ち上がった。
「でも本当のことだし。あ、もしかしてお前牧丘のストーカー?」
私が行こうとしても前に立って道を塞いで、意地悪な笑顔を見せる。
…何でいつもいつも、こんな風にバカにされなくちゃいけないの?
私が一体、アンタに何をしたの?
仲良くなりたい訳じゃない、ただ放っておいてほしいだけなのに。
「…」
「なぁ、何か言えよ。もしかして泣いちゃう?」
…相沢なんか。相沢なんか、意地悪で、俺様で、デリカシーなくて、自己中心的で、自分が楽しむ為だけに人をバカにして遊ぶような、最低な奴だ。
皆の人気者だろうが、女子からモテようが、私はこんな奴ーー
「大っ嫌い」
気付けば、口に出していた。私の目の前に立つ背の高い相沢の目を真っ直ぐ見つめ、渾身の呪いを込めて口にした。
相沢は意地悪な笑顔を消して、目を見開いたまま固まる。その周囲に居た人達も驚いているみたいで、一瞬教室はシンと静まり返った。
我に返った時にはもう遅い。飛び出た言葉は、元には戻せない。私は相沢を押しのけて、そのまま小走りで教室を出た。
「花梨!花梨、大丈夫?」
普段は使われない空き教室の扉の前で足を止めると、追いかけてきてくれたミオちゃんに抱き着いた。
「花梨…」
「どうしよう…どうしよう。私とんでもないこと言っちゃった…!もう教室に戻れないっ」
ポロポロと涙をこぼす私を、ミオちゃんは優しく抱き締め返してくれる。
「大丈夫。大丈夫だから、一回落ち着こ?」
あの相沢に大嫌いだと言ってしまった私はきっと、明日には女子からの嫌がらせの対象だ。
相沢だって、きっとキレてるはず。今まで以上に酷いことを私に言ってくるかもしれない。
「大丈夫、アイツが悪いんだから。花梨は何も悪くないよ。私が居るから、大丈夫」
ミオちゃんが居てくれて良かったと、心底思った。じゃなきゃ今頃、教室じゃなくて学校自体飛び出していたかもしれない。
それから予鈴を無視して、本鈴がなるギリギリまで私は教室に帰らなかった。
ミオちゃんに「先に教室帰ってて?」って言ったけど、ミオちゃんは首を横に振ってずっと私に寄り添ってくれてて。
そんなミオちゃんまでサボらせるわけにいかないから、私は思い足を引きずって教室へと向かった。
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