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気を失っていたのか、眠っていたのか……
気が付けば、俺に一人の女が寄り添っていた。言葉を発せられない俺に、彼女は献身的に世話を焼いてくれた。来る日も、来る日も……。
彼女が美人かどうか、俺には分からない。
ただ底知れぬ安心感に俺は彼女に夢中になった。彼女なしでは、生きられなかった。少しづつ身体が思うようになってきた頃、気が付くと、彼女が世話をしているのは俺だけでは無かった。俺より状態が悪いのか、彼女はそっちの男へ時間を費やすようになった。
それでも俺は彼女が好きで好きで仕方が無かった。彼女はいつも憔悴しきっていた。
「ごめん」
彼女のお陰で話せるようになったのに、彼女のお陰で少しづつ上手くやれるようになったのに。俺は彼女に何もしてやれなかった。
それなのに「すごい」彼女は俺がして見せた事に嬉しそうに目を細めた。
その時の、彼女の綺麗なアーモンド形の瞳。
綻んだ目元には……優しい笑い皺が二本出来た。
彼女との出会いから3年が過ぎた頃、俺は全ての記憶を失った。
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