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──二人で走るなんて久しぶりだ。
近道なんつって、自転車もすれ違えない程の小道を弟が先に走っていく。
この辺りだけ区画整理がされてないのか、土地勘がなけりゃ、直ぐに私有地にぶち当たる。庭木か、街路樹か、我が物顔で根を張る木々が、アスファルトよりも盛り上がり、いちいち足を止めさせる。
“走るな”って言われてるみたいだ。
弟の背中を追いかけるなんて随分久しぶりで……いや、あいつはいつだって『兄ちゃん、兄ちゃん』って俺の後をついて歩いてたはずだ。
……ん?……妙だな、今日は。
俺が追いかけて来ないことに気付いたのか、珍しく生け垣の残る民家を曲がったところで足を止めていた。
「なんだぁ?」
「さぁ」
「迷子?」
「俺、先に行くの苦手だ」
弟がボソリとそう言った。
迷うわけもない、俺達には馴れたそんな道で。
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