光の中の彼女

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 部屋に入るとすぐにクーラーをつけて僕はそのまま床にぶっ倒れた。そしてまだ手につまんでいた蝉のサナギの抜け殻を摘みながらさっきの出来事を思い返していた。あれは現実だったのだろうか。それとも夢なのだろうか。  あの子は10年前に僕に助けられたと言った。だけど僕は女の子を助けたことなんか一回もない。だとしたら誰のことを言っているのだろう。  いや、やっぱり幻想だ。イリュージョンだ。夏の暑さにありえない夢を見ただけさ!と僕がやけになって昼寝をしようとした時だった。    コンコンと誰かが部屋のガラス戸叩いた。僕は泥棒かと慌てて飛び起きて音のしたガラス戸を見た。ガラスの向こうに人影が見える。僕は息を止めてガラスの向こうの人影をを見続けた。  すると外の人影がもう一度コンコンとガラスを叩き、そして僕を呼んだのだ。 「ねえ、君。ちょっと開けてよ!落とし物取りにきたんだよ!」  僕はその声に電気ショックを受けたかのように立ち上がるとそのままガラス戸へ向かいそしてそのまま戸を開けた。開けるとそこにさっきの女の子が膨れっ面をしながらしゃがんでいる。  僕は胸に手を当てて動揺を抑えながら彼女に聞いた。 「お、落とし物ってなんなの?」  膨れっ面の女の子が指を指して答える。 「それ、君が手に持ってるやつ!大事なものなんだから早く返して!」 「あの、僕、今蝉のサナギの抜け殻しか持ってないんだけど……」 「エッチ!何がサナギの抜け殻よ!いつまでもベタベタ触ってないで早く返してよ!」  そう言うなり女の子は僕の手から蝉のサナギを取ると、そのサナギの抜け殻に顔を近づけて頬ずりをし始めた。  
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