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ホールのケーキを、おそるおそる八等分に切り分けていく。
自分の不器用は自覚しているが、今回も無駄にそれを発揮してしまった。〝等分〟の概念が揺らぐ。大きくなった分を蓮にあげようと、茅乃はふた切れのケーキをそれぞれ小皿に取り分けた。
「いただきまーす、ってなんかデカくねこれ?」
「いいでしょ別に……小さかったら怒る癖に。ってちょっと、それ私のフォーク!」
「なんだよ、フォークにまで誰のとかあんのかよ」
「それは私が自分で買ったやつなの! お気に入りなんだから返してよ!」
「マジでウゼェなあんた……ほらよ」
小言を零しつつも、蓮はフォークを返してくれた。基本的に、彼は茅乃が本気で嫌がることをしない。
キラキラにデコレーションされたガーリーなデザインのフォークを取り返しながら、よくそれを手に取ろうと思ったな、と茅乃は心の中で密かに感心する。無頓着にもほどがある。
茅乃より先にケーキを食べ終えた蓮は、コップのオレンジジュースをごくごくと飲み干した。
黙ってなにかを食べているときは――黙ってさえいれば、どこからどう見ても天使だ。微笑ましい気分でケーキにフォークを伸ばした茅乃だったが、リビングへ移動した蓮を見た途端、派手に全身を強張らせた。
蓮が、半端に留め金の外れた茅乃の学生鞄を漁り始めたからだ。
「なんだこれ、『幼馴染は私の専属ナイト』……『意地悪な彼にカラダもココロも奪われて』……?」
「アッ!! ちょ、それは……ゴフゥッ!!」
ななななにしてんのオマエ!
っていうかタイトル音読してるんじゃないよ、羞恥で死ぬだろうが……!!
……という茅乃の心の叫びと硬直を完全に無視した蓮は、鞄から取り出した二冊の本を興味深そうに眺めている。
美男子に背中から抱き締められた女の子が顔を赤くして抗議している表紙イラストが、不意打ちで目に飛び込んでくる。口に入れたばかりのチーズケーキが詰まりかけた茅乃は、ゴフゴフと咳き込みながら悲鳴じみた声をあげた。
「ちょっおまっなにしてるんですかかかか返したまえよ!!」
「つーかナイトなんだろ、なら守れよ奪っちゃ駄目だろうが……ってなに焦ってんだよ、これエロ本?」
「ゴフッ!!」
再度むせた。タイトルに対する辛口なツッコミにも心が折れかけたが、その後の卑猥な単語にも激しくむせた。
小学生がなにを口にしている、しかも平然と。そもそもその手の話題が苦手な茅乃は、瞬く間に顔を赤らめてしまう。
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