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「わぁー!」
窓に張り付く夏樹から、ご機嫌な声が漏れる。その無邪気な横顔を見て、僕の緊張がほんの少し和らいだ。
「きれー!」
夏樹の視線に釣られて下を見る。まばゆい光が、色とりどりの色に、ゆったりと変化していく。きらきらと光り輝く遊園地は、まるで一つの大きな万華鏡のようだった。
僕は視線を上げ、夏樹の横顔をちらりと見る。
「あのさ、この前の、ことなんだけどさ……」
「この前?」
振り返る夏樹の顔の動きに合わせ、僕は逃げるように、また視線を下げた。間隔の狭い鼓動が、僕の思考力を奪っていく。
「あー……ごめん。なんでもない」
視界の端には、不思議そうに首をかしげる夏樹の姿が映っていた。
僕は自然を装い、後頭部にゆっくり手をやると、髪を掴むように軽く指を二回動かし、頭を掻く振りをした。そして、顔の向きを少しだけずらし、夏樹の姿を視界から追い出した。
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