5.遊園地

10/12
64人が本棚に入れています
本棚に追加
/177ページ
 二人きりの静かな空間。金属の(こす)れる音が、時々伝わってくる。  鼓動が、外に漏れ出してしまっているんじゃないかと、不安になった。皮肉なことに、不安になればなるほど、僕の鼓動はどんどん大きくなっていくようだった。 「もうすぐ、頂上だね」  声に反応して、顔を上げる。窓から僕のほうへ向き直った夏樹と、しっかりと目が合った。はっと息を呑み込んだ口の中で、あとは声にして出すだけだった「そうだね」という返事が、音もなく溶けていった。  僕へと真っ直ぐに向けられた柔らかな視線は、僕の心臓に、大量の血液を一気に吐き出させた。  僕の足の間に、ゆっくりと膝をつく夏樹。 「えっ……。なにっ? なにっ? どした?」  僕は完全に狼狽(うろた)えていた。そんな僕とは対照的に、夏樹はとても落ち着いているように見え、その大きな差が、僕を余計に狼狽えさせた。
/177ページ

最初のコメントを投稿しよう!