6.謝罪

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 一人になった僕は、深く沈み込むようにして座席に座る。湯船に浸かったときと同じ、至福の溜め息が、お腹の底から自然と出てきた。  向かいの窓には、ロングシートに座る僕の姿が映っている。行きとは少し違って見える表情。気を抜くと、顔が緩んでしまいそうで、そうならないよう必死に(こら)えていた。    見慣れた駅名が、窓の外を数回ゆっくり流れていき、電車が止まる。  ドアが開き、電車の床を軽く踏み切るように飛び、両足同時に着地する。ホームのコンクリートに、スニーカーの靴底がぶつかる音が、小さく響いた。少し緩みかけた顔に、ぐっと力を入れる。  僕は、何事もなかったかのように、次の一歩を踏み出した。 ――その瞬間、聞き覚えのある声に呼び止められ、僕の体は完全に動きを止めた。
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