1.失恋 

1/20
64人が本棚に入れています
本棚に追加
/177ページ

1.失恋 

 唇で、そっと夏樹の鼻先に触れる。  まだ触れていない場所を探し、移動していく僕の唇が、首筋を滑り落ちていく。  鎖骨をなぞるように、舌を肩先へゆっくり這わせていくと、夏樹は肩をきゅっと上げて首をすくめた。    背中に回した腕に力を入れ、夏樹の体を引き寄せる。    首筋と肩先の中腹に、唇を押し付け、細く強く吸い上げると、夏樹の肌に、ひとひらの花びらのような、赤い(あと)が残った。    愛しくて、愛しくて、たまらない……。    僕は、夏樹を抱きしめた。ただひたすら、強く、強く、抱きしめた。  このまま腕の中で、夏樹を壊してしまいたい!    今、夏樹に対するこの想いに名前を付けるとしたら、何になるのだろう。もし許されるならば、これが恋であることを、切に願った。 『【恋】 特定の異性に強く惹かれること。また、その気持ち。』    ある辞書に、そう書いてあった。
/177ページ

最初のコメントを投稿しよう!